選考データの分析|採用業務のAI活用(第7部)
選考の段階ごとの人数と割合から、候補者が減っている段階を確認する方法を解説します。見送り理由の分類、毎週の確認、AIに任せる範囲と人が確かめる範囲を扱います。
この記事は、シリーズ「採用業務のAI活用」(全8部)の第7部です。各部の一覧はシリーズの目次にあります。内容は、HRdevが採用支援の実務で培った知見をもとにした使い方の例です。
スカウトの返信が少ない。面接までは進むのに採用が決まらない。こうしたときは、まず選考の段階ごとに数字を並べ、どの段階で候補者が減っているかを確認します。第7部では、選考データから何が分かるのか、そしてその作業のどこをAIに任せ、どこを人が確かめるのかを扱います。
図1 選考の段階ごとの数字と数字が低いときに見直す場所

返信が少ないのか、面談に進まないのか、面接で見送りになっているのか。この3つは原因が違うため、対策も別になります。
1. 選考の段階ごとの人数と割合
1-1 段階ごとの人数と割合の並べ方
採用の流れを段階に分け、段階ごとの人数と、次の段階へ進んだ割合を並べます。数えるときは、同じ期間に選考を始めた候補者をひとまとまりにして追いかけます。この章の数え方は、段階ごとの歩留まりを詳しく分析するためのものです。毎月の推移や媒体ごとの比較で返信率を確認するときは、第5部7章の期間ごとの数え方を使います。割合(返信率、面談の設定率、通過率、承諾率など)ごとの分子と分母は、図2のとおりです。
図2 選考の段階ごとの割合の分子と分母

どの割合も、結果が出るだけの時間が過ぎた人、または結果が確定した人を分母にします。「決めた日数」は、返信や面談の設定を待つ期間として、割合を出す前に決めておく日数です。
たとえば書類選考に10人が進み、通過が4人、見送りが3人、候補者からの辞退が1人、選考中が2人だったとします。通過率は4÷7で約57%です。辞退の1人と選考中の2人は分母に入れず、人数を別に示します。段階ごとの割合がそろうと、図1のどのまとまりで人が減っているかが分かり、改善する場所を絞り込むことができます。
比べる相手は、まず自社の過去です。他社の平均と比べても、職種も知名度も違うため、対策につながりません。同じポジションの前の四半期、あるいは同じ職種の別のポジションと並べます。社外の数字は、自社の傾向をつかんだあとで参考に使います。
この章のまとめ
まず、どの段階で人が減っているかを特定します。比較の基準には、同じポジションの前の四半期など、自社の過去の数字を使います。
1-2 件数と割合を計算する担当の決め方
図3 分析作業の分担

件数や割合は関数やプログラムに任せる側に分類しています。AIには、文章を読んで傾向や該当箇所を拾う作業を任せます。
使うモデルによっては、AIが件数や割合を適切に計算できないことがあります。2026年9月時点の最新モデルであれば、基本的な計算は問題なくできることが多いですが、LLM(大規模言語モデル)の特性上、計算は得意分野ではありません。
運用では、次の2つを定めておきます。1つめは、AIが「自信がある」と答えても、その答えをそのまま使わないことです。関数やプログラムで数えた値と比べて、一致して初めて数字として使います。
2つめは、分担の決め方です。AIには、文章から傾向を読み取ること、原文から該当箇所を引用すること、文章の意味を読んだ分類の下書きを任せ、分類は人が確認します。分類が決まったあとの件数や割合の計算と、職種や選考段階のように条件がはっきりした振り分けは、関数かプログラムに任せます。件数が100件程度なら、人が1件ずつ分類して列に記録し、その結果を関数で集計する方法もあります。
この章のまとめ
件数と割合の計算は、関数やプログラムで行います。AIに計算させた場合は、関数で出した値と照らして確認します。使うモデルによっては、AIが適切に計算できないことがあるためです。
1-3 人数が少ないときの数字の読み方
割合を書くときは、元になった人数を必ず添えます。1か月だけの増減を施策の効果と言い切らず、数えた期間を明記します。
採用の分析は、元になる人数がほかの業務の分析より少ないところから始まります。年間の採用が3名から10名という規模では、内定を出す候補者は、四半期で数名にとどまります。内定を出した数名のうち2名が辞退すれば、承諾率は数十ポイント単位で上下します。
この前提を置かずに割合だけを並べると、たまたまの上下を施策の成果と読み違えます。運用のルールとして、次の3つを守ってください。
割合を書くときは、元になった人数を必ず添えます。「通過率40%」だけでなく、「5名中2名が通過(40%)」のように人数と割合を並べて書きます
1か月だけの増減を、施策の効果と言い切りません。返信率は、媒体、会社の知名度、募集の条件が組み合わさって決まります
数えた期間を明記します。データを月に1回取り込んでいるなら、ファイルを作った日と、数えた期間の最終日は最大1か月ずれます。「直近30日」が、データの最終日までの30日なのか、今日までの30日なのかを、読む人が分かるように書きます
人数が少ないうちは、件数と1件ごとの理由を先に読みます。見送りが5名あったなら、割合を出す前に5件の理由を読みます。分析の方法としては素朴ですが、この規模ではそのほうが原因を早く特定できます。
2. 内容の分析
2-1 求人票と面接の評価基準の照合
面接の評価シートに出てくる言葉で、求人票とスカウト文を検索します。どこにも出てこない評価項目では、候補者の期待と会社の見方が食い違っている可能性があります。
図4 評価に使う言葉で求人票とスカウト文を検索する手順

「逆算」のように言葉の一部で検索して「逆算する」「逆算した」もまとめて探し、意味が近い別の言葉が同じ評価項目にあたるかは人が文脈で判断します。
面接までは進むのに採用が決まらないときは、求人票を読んだ候補者の期待と、会社が面接で重視している点がずれていないかを確認します。このずれは、機械的に確かめることができます。
手順は4つです。
面接の評価シートの項目説明から、その会社が実際に評価に使っている言葉を抜き出します。使命感、結果へのこだわり、学ぶ意欲、数字で考える力、ゴールから逆算して考える力、といった言葉です
抜き出した言葉で、求人票の本文を検索します。要約、必須の条件、歓迎する条件、求める人物像のすべてを対象にします
同じ言葉で、実際に送ったスカウト文を検索します
面接では評価されているのに、候補者が読む文書のどこにも出てこない項目を表にまとめます
この表に並んだ項目は、候補者への説明が足りていない可能性があります。同じ内容が別の言い方で書かれていないか、その評価項目自体が募集の役割に合っているかを人が確認します。そのうえで説明が足りていなければ、求人票とスカウト文に追記します。会社はその点を評価しているのに、候補者はそれが評価されると知らないまま面接に来ている可能性があるためです。
検索には、言葉の形の違いもまとめて探せる検索の書き方を使います。完全に一致する言葉だけを探すと、語尾が変わった形を見落とします。まず「逆算」のように言葉の一部で検索し、「逆算する」「逆算した」をまとめて見つけます。「先を見通して」のように意味が近い別の言葉も候補として探し、同じ評価項目にあたるかは人が文脈で判断します。
2-2 見送り理由の書類段階と面接段階への分類
図5 見送りの理由の分け方と見直す場所

見送りの理由ごとに、書類で分かったかどうかを記録すると、書類の判定ルールと、求人票やスカウト文のどちらを見直すかが決まります。
見送りの理由を数えるときは、理由ごとに「その理由は書類の段階で分かったか」を確認します。経験年数や技術の領域が合わないことは書類で分かる理由、本人の志向と役割が合わないことは面接で初めて分かる理由です。
書類で分かる理由で面接まで進んだ人がいれば、その理由が書類に書かれていたかを確認します。書かれていたのに通していたなら、書類の判定ルールを見直します。書かれていなかったなら、事前の質問票のように面接の前に確かめる方法を用意します。見落としで使った面接の回数に、1回あたりの時間と面接官の人数を掛けると、減らせる時間を見積もることができます。
面接で初めて分かる理由が多い場合は、書類の判定を厳しくしても解決しません。求人票とスカウト文での役割の説明を見直します。
この章のまとめ
見送りの理由を、書類の段階で分かるものと、面接をしないと分からないものに分けます。書類で分かる理由で面接まで進んだ人がいれば、書類の判定を見直します。
2-3 候補者からの質問の分析
第6部で記録した質問を、ここで分析に使います。候補者からの質問は、事前に伝えている情報の足りない部分や、分かりにくい部分を示しています。
面接や面談のメモでは、候補者の質問と面接官の回答がまとめて箇条書きされていることがあります。まず、質問を1問ずつに分けます。このとき、面接官の回答のメモや、候補者の状況の説明は外してください。「人によるが20から30程度」「出社日について説明」といった行は、質問ではありません。外したことは、分析結果の資料に書いておきます。
1問ずつに分けた質問を、働き方と条件、事業とプロダクトのような話題ごとに分類したうえで、職種ごと、選考の段階ごとに集計します。職種によって、聞かれることは大きく違います。ある支援先の実際のデータでは、エンジニアの質問では働き方と条件に関するものが目立ち、プロダクトマネージャーの質問では事業とプロダクトに関するものが半数を超えました。同じ会社の同じ選考でも、職種が違えば、求人票で詳しく書くべき箇所が違います。
この章のまとめ
候補者からの質問の記録は、事前に伝えている情報の足りない部分や、分かりにくい部分を示します。職種ごとに数えると、求人票で詳しく書くべき箇所が職種ごとに分かります。
2-4 面談と面接の記録を使った定性の振り返り
振り返りは、数字を使う定量と、面談や面接で話した内容を使う定性に分けて行います。定性の振り返りでは、記録から候補者の関心と懸念を拾い、スカウトと求人票の改善に使います。
ここまでの章で扱った段階ごとの人数と割合は、定量の振り返りです。どこで人が減っているかは分かりますが、なぜ減っているかまでは分かりません。そこで、面談と面接の記録を使った定性の振り返りを並行して行います。
理想は、面談と面接の録画や文字起こしから、候補者が関心を示した点、懸念を示した点、他社と比べていた点を抜き出すことです。抜き出した内容は、スカウトの文面と求人票の改善に使います。AIには文字起こしから該当する発言を原文のまま抜き出させ、どれを改善に使うかは人が決定します。
3. 分析データの取り出しと報告
図6 採用管理システムのデータの取り出しから報告まで

データの取り出しは手順を決めておけば誤りが起きにくいため、人が確認する時間は、AIが挙げた原因を件数と原文で確認する作業に充てます。
採用管理システムのデータをCSVで取り出して照らし合わせる
分析には、採用管理システムから候補者の一覧をCSVファイルで書き出し、管理シートと候補者IDで照らし合わせる方法を推奨します。システムの画面を1件ずつ開いて読むより早く、書き出したファイルは分析の材料としてそのまま残すことができます。分析の作業では、システム側の選考状況や評価を書き換えません。
報告書に候補者の氏名を載せる場合の扱い
分析の報告書には、候補者の氏名を載せてかまいません。どの候補者の判断をどう見直すかは、個人が特定できないと議論できないためです。載せる場合は、報告書の共有先を選考に関わる人に限ります。個人情報を含む途中のデータは社内で決めた保存先にとどめ、個人のアカウントの共有ツールや外部の保存先に置かないでください。社外の採用支援会社に分析や報告を任せる場合も、報告書の共有先と保存先を、あらかじめ自社と合意した範囲に限ってもらいます。
AIが挙げた原因と傾向の確かめ方
分析の結果は、思いどおりにならないことが多くあります。AIが挙げた原因や傾向には、観点の漏れや、少ない件数からの言い過ぎが混ざります。原因として挙がったものは件数と原文で確かめ、確かめられないものは仮説として報告します。見直しても結論が定まらないときは、分析を頼んだ人と観点を相談してから続けます。
この章のまとめ
採用管理システムのデータはCSVで書き出し、管理シートと候補者IDで照らし合わせます。AIが挙げた原因や傾向は、関数で数えた件数と元の記録の文章で確認してから報告します。
4. 分析作業での進め方Aと進め方B
進め方A(スプレッドシートとGemini)
1件ずつ確かめながら進めたい場合。スプレッドシートのAI関数(セルの中からAIに頼む機能)と、Geminiのスキル(指示と資料を保存して繰り返し呼び出せる機能)を使います。会社のGoogle Workspaceのアカウントでスキルがまだ使えない場合は、同じ指示をGemsに保存して使います(第2部6章)。
段階ごとの人数を手で入力し、割合は関数で計算します。ここにAIは要りません。数字が並んだ表を作ってから、その表をAIに読ませて、考えられる原因を挙げさせます。
スキルを呼び出すときに、計算済みの表と、前の四半期の同じ表を渡します。数字そのものは数えさせず、並んだ数字から何が読み取れるかだけを任せてください。
進め方B(Claude CodeとCodex)
件数が多く、手順の決まった作業をまとめて任せたい場合。Claude CodeやCodex(パソコン上のファイルやスプレッドシートの操作から資料の作成まで、手順ごとまとめて任せられるAIエージェント)を使います。
採用管理システムから書き出したCSVを管理シートと照らし合わせ、数えるところまでをプログラムで行います。プログラムでも、期間や重複の扱い、分母の指定を間違えれば数字は狂います。数える条件は人が確かめ、数件を手で数えて一致を確かめてから使います。AIには、この確かめた表だけを渡します。
面接で評価している項目が求人票に書かれているかを確かめる作業(2-1)も、言葉の抜き出しはAI、検索と照らし合わせはプログラム、という分担にします。抜き出した言葉の一覧は、人が確認してから検索に使います。
この章のまとめ
進め方A(スプレッドシートとGeminiで1件ずつ進める)では、関数で計算した表を、Geminiのスキルを呼び出して読ませ、考えられる原因を挙げさせます。進め方B(Claude CodeやCodexでまとめて処理する)では、数える条件を人が確かめたうえでプログラムで数え、その表をAIに渡します。
5. 毎週の確認への組み込み
分析を、四半期に一度の大がかりな作業にすると続きません。段階ごとの数字を並べた表を1枚用意し、週に15分だけ確認する形にします。毎週は、選考のどこかで止まっている候補者と、新しく確定した見送りや辞退の理由を確認します。人数が少ない段階の割合は週ごとに大きく動くため(1-3)、通過率や承諾率など選考段階の割合は、同じ期間に選考を始めたまとまりどうしで比べます。確認した結果は、次のように1行で記録します。
数字 | 確認したこと | 担当 | 次の行動 |
|---|---|---|---|
内定後の辞退が1件 | 辞退の理由と、最終面接までに伝えた条件 | 採用担当 | 役割の説明を現場と見直し、次の週に報告する |
この表は、経営陣への報告にも使うことができます。報告では、確認できた事実、考えられる原因、次に確かめること、担当と期限を分けて書きます。AIが挙げた原因は、確かめるまで事実として報告しません。
分析で見えてきた原因は、第3部の求人票、第4部の判定ルール、第5部のスカウト文面に戻して修正します。
この章のまとめ
選考の段階ごとの人数と割合を並べた表を1枚だけ用意し、週に15分確認します。毎週は、選考のどこかで止まっている候補者と、新しく確定した見送りや辞退の理由を確認します。選考段階の割合は同じ期間に選考を始めたまとまりどうしで比べ、返信率の推移は第5部7章の数え方で確認します。
シリーズ「採用業務のAI活用」の構成
永井涼平
HRdev代表
レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。
