NRR
(えぬあーるあーる/売上維持率/NDR/Net Revenue Retention)
- 登場(海外)
- 2015年
- 更新
- 2026-09-06
一言でいうと
既存顧客だけを見たときに、一定期間前の収益がいまいくらになっているかを表す割合で、解約と縮小で減った分を拡大分が上回れば100%を超えます。
提唱者と登場年
特定の提唱者はいません。SaaSの投資家と経営者が既存顧客の収益推移を測るために使い始めた語で、初出を示す一次資料は見あたりません。上の2015年は、この考え方を投資家向けの指標として定義した文書が確認できる時期を指します。
その文書がAndreessen Horowitzの「16 Startup Metrics」(2015年8月)です。解約だけを見るgross churnと、既存顧客からの拡大分を差し引いたnet churnを並べて定義しています。これに先立ちDavid Skokは「SaaS Metrics 2.0」で、拡大が解約を上回る状態をnegative churnと呼びました。NRRは同じ状態を維持率の側から言い直したものです。
背景にあるのは新規獲得の費用が上がり続けたことです。獲得単価が上がるほど、新規を取り続けて成長を作る形は割に合いません。すでにいる顧客からどれだけ伸ばせるかが、成長の主軸に移りました。
何を解決するか
解決したいのは、新規獲得の勢いが既存顧客から得ている収益の目減りを覆い隠すことです。MRRやARRの合計だけを追っていると、新規で積んだ分が解約と縮小を相殺している状態に気づけません。
NRRは新規を計算から外します。母数を一定期間前にいた顧客に固定し、その顧客群がいまいくら払っているかだけを見ます。100%を超えていれば、新規を1件も取らなくても収益が伸びる状態です。
前提として、収益の増減を新規・拡大・縮小・解約の4つに分けて記録できている必要があります。合計額しか持っていない状態では算出できません。
実際の進み方
まず期間と母数を決めます。12か月前にいた顧客をひとまとまり(コホート)として固定し、その後に増えた顧客は最後まで計算に入れません。
次に、その顧客群の期間前の収益を分母に、期間末に同じ顧客群から得ている収益を分子に置きます。月額1万円の顧客が100社で分母は100万円、うち10社が解約し、別の10社が月額2万5,000円へ上がったとすると、期間末は80社×1万円+10社×2万5,000円で105万円、NRRは105%です。これは期間前後の比で出した値です。
そのうえで増減の内訳を拡大・縮小・解約に分けて毎月更新します。同じ105%でも、拡大も解約も大きい状態と、どちらも小さい状態では打ち手が違います。
導入でよくある失敗
- NRRだけを見て解約の実額を見ない。Andreessen Horowitzは「16 Startup Metrics」で、net churnは拡大分を解約に混ぜるため損失を過小に見せると指摘しています
- 新規顧客を分子に入れる。母数の顧客群と分子の顧客群が違えば、それは維持率ではなく成長率です
- 期間前後の比ではなく、期首の収益に拡大を足して解約と縮小を引く積み上げ式で出したうえで、拡大分の数え方を決めない。Stripeのドキュメントは、月額10ドルの100人から10人が解約し5人が25ドルへ移行した例で、移行後の25ドルを丸ごと拡大分に積んで102.5%としています。同じ数字を期間前後の比で出すと97.5%です
- 少数の大口顧客の増額で全体が100%を超えたのを、製品が定着した証拠として扱う。顧客数の維持率と併記しないと判断できません
求人票にこの語がある場合に読み取れること
既存顧客からの拡大を成長の主軸に置いている会社だと読み取れます。エンジニアの求人にこの語が出ることはまれで、多くはカスタマーサクセス・セールス・BizOpsの募集に現れます。
読み取れないのは母数です。全顧客か、特定のプランか、一定金額以上の顧客に限っているかで値は動きます。面接では、母数の取り方と、直近1年の解約・縮小の実額を聞きます。
自社側では、母数と拡大分の数え方を決めてから求人票に書きます。上場企業と上場準備企業では、IRで開示していない指標を採用広報に先に出さないよう、広報と表記を突き合わせます。
隣接手法との違い
| 指標 | 中心にあるもの | NRRとの違い |
|---|---|---|
| チャーンレート | 失った顧客または収益の割合 | 減った分だけを見る。拡大は数えない |
| GRR(Gross Revenue Retention) | 拡大を含めない維持率 | 100%を超えない。解約と縮小の大きさがそのまま出る |
| MRR成長率 | 新規を含む収益全体の変化 | 新規獲得の勢いが混ざるため、既存顧客の状態は読めない |
関連キーワード
拡大収益 / 縮小 / GRR / negative churn / コホート / アップセル / クロスセル