ハイクラスエンジニアからスカウト返信をもらうための設計
テックリードやEM層にスカウトを送っても返信が来ない。支援先のデータでは、この層の返信率が特別に低いという結果は出ませんでした。難しさは送れる相手の少なさにありそうです。母集団の広げ方と、提示する内容の組み立て方を整理しました。
テックリードやエンジニアリングマネージャーにスカウトを送っても、返信がほとんど来ない。ジュニア〜ミドル層では返信があるので、ハイクラス層は難しいのだと結論づけたくなります。
ここでのハイクラス層は、テックリード、エンジニアリングマネージャー、SRE、基盤系のように、技術と意思決定の範囲が広い役割を指します。年収帯で区切るハイクラス媒体の定義とは別のものとして読んでください。
ただ、自分たちの送信データでは、この層の返信率が特別に低いという結果は出ませんでした。難しさの正体は、別のところにありそうです。
ハイクラス層の返信率は本当に低いのか
職種別に見ると、シニア層が中心の職種でも返信率は全体平均の近くにありました。ただし母数は小さく、確定的なことは言えません。
支援先で送ったスカウト12,220件(5社・44ポジション、2022年9月〜2026年5月)を、ポジションの職種別に見ました。シニア層が中心になる職種では、SREが6.3%(542件)、エンジニアリングマネージャーが6.1%(651件)、テックリードが5.5%(218件)でした。全体の返信率は5.7%です。
数字の上では平均と大きく変わりませんが、これを「ハイクラス層でも返信率は落ちない」と読むのは行き過ぎです。テックリードは218件で返信12件、母数が小さいため差を検出できていないだけ、という可能性があります。さらに、これらの職種はクライアント1社ずつに偏っており、職種の特性なのかその会社の条件なのかを分けられていません。
言えるのは、自分たちが見てきた範囲では、この層の返信率が他職種より極端に低いという傾向は確認できなかった、というところまでです。
その前提で、実務の感覚として難しさを感じるのは別のところにあります。送れる相手の絶対数です。テックリードや基盤系のポジションでは、検索条件に当てはまる候補者が数十人しか出てこないことがあります。返信率が同じでも、母数が10分の1なら返信の絶対数は10分の1です。
自社の状況を確認する方法は単純です。採りたい職種の条件で媒体の検索をかけて、ヒット件数を見てください。他の職種と並べると、母集団の差が数字で出ます。媒体の担当者に職種別の登録者数を聞く方法もあります。
このとき、検索のヒット件数をそのまま母集団として数えないでください。最終ログインが1年前の方も、自社が半年前に送った方も件数に入っています。
最終ログインを3ヶ月以内に絞り、自社の送信済みを除いた件数が、いま実際に送れる相手の数です。
検索条件に年齢や性別を使わないでください。募集や採用で年齢を制限することは原則として認められておらず、性別による取り扱いの差も法律で禁じられています。経験年数の下限を年齢の代わりに使う設計も、同じ問題になりえます。条件の可否は自社の法務や顧問弁護士に確認してください。
母集団が数十人規模なら、返信率を1%上げる工夫より、送れる相手を増やす設計のほうが返信の数につながります。
母集団を広げるなら媒体から検討する
検索条件の緩和ではなく、媒体を増やす方向から検討します。条件を先に緩めると、母集団の数字だけが増えます。
母集団が足りないとき、多くの現場はまず検索条件を緩めます。経験年数の下限を下げる、必須の技術を1つ外す。ただこの順序だと、要件から外れた層が母集団に混ざります。
条件を緩めると、要件を満たすか確認できていない層が母集団に入ります。この層は返信が来ても選考に乗らないことが多く、面談の枠を消費して終わります。母集団の数字は増えますが、採用は近づきません。
先に媒体側を検討してください。シニア層は登録している媒体が分散しやすく、1〜2媒体だけだと届く範囲が限られます。支援先の送信データでは、媒体によって返信率に10倍以上の開きがありました。職種との相性も違います。
媒体を追加するときの確認は次のとおりです。
その媒体にシニア層がどれくらい登録しているか(媒体の担当者に職種と経験年数帯で聞けます)
送信数が溜まるまでは結論を出さない(方向を見るのに100件程度は必要です。この数で媒体の可否を決め切れる水準ではありません)
母集団が小さい層では、返信率より返信の数で見る(100件で返信6件と3件の差は、率で比べても判断材料になりません)
返信率だけでなく、面談到達まで追って判断する
それでも母集団が足りないなら、そこで要件の見直しに入ります。順序を逆にすると、母集団は増えても選考に乗る人が増えません。
検索条件そのものの組み立て方は、エンジニアのスカウト返信率を上げるための考え方でも扱っています。SREとEM、バックエンドで候補者が重なる点は、条件を設計するときの判断材料になります。
要件を見直すときも、経験年数を一律に下げるより、必須項目のうちどれが本当に入社時点で要るのかを1つずつ確認するほうが精度が保てます。「入社3ヶ月のキャッチアップで身につくか」を基準にすると、必須と歓迎の線が引きやすくなります。
母集団を増やす別の経路として、すでに接触した候補者の再アプローチもあります。半年前に返信がなかった方でも、状況が変わっていることがあります。媒体によっては再送のルールが決まっているので、担当者に確認してから設計してください。
任せる範囲と裁量を具体的に書く
待遇の条件だけでは動きません。入社後に何を決められるかが読めるかどうかで、返信の来方が変わります。
支援に入ってきた現場では、新しいものを立ち上げるポジションのほうが反応が返りやすいと感じています。ただし職種ごとにクライアントが1社ずつに偏っていて、職種の特性なのか会社の条件なのかを分けられていません。傾向の話として読んでください。
差が出る理由は、候補者から見て「入社後に何ができるようになるか」が伝わりやすいかどうかだと考えています。新規事業は、任される範囲も、意思決定の幅も、文面から想像しやすくなります。一方で「共通基盤の改善」は、実際には難易度も裁量も高いのに、文面からは日々の運用に見えてしまいます。
シニア層に送るときは、次の3つを具体的に書けているか確認してください。
書くこと | 曖昧な例 | 具体的な例 |
|---|---|---|
何を任せるか | 基盤の設計・運用 | 複数プロダクトが乗る認証基盤を、今の構成から作り直す |
どこまで決められるか | 裁量があります | 技術選定と、移行計画の順序はこのポジションで決める |
誰と組むか | チームで開発 | バックエンド3名と、CTOが週1で入る |
このうち「どこまで決められるか」が、自分たちの見ている範囲では反応の差に一番つながっています。この層は転職を考えるとき、待遇と同じくらい「自分が決められる範囲」を重視しています。裁量があります、という表現だけでは何も伝わりません。何を決められるのかを1文足すだけで、候補者は入社後の仕事を具体的に思い描けます。
逆に、待遇の条件を前に出す書き方は、この層にはあまり届きません。現職でも一定の水準を得ている層なので、金額だけで動く理由になりにくくなります。
ただし、提示できる水準が現職を下回っていると、内容がどれだけ具体的でも検討の土俵に乗りません。市場水準を確認しないまま文面だけ作り込むと、返信が来ても条件の話で止まります。媒体の担当者に、その職種の提示レンジを聞いておくと、手戻りを防げます。
もう一つ、この層に固有の論点があります。転職の理由が「技術的な挑戦」だけとは限らないことです。マネジメントとプレイヤーのどちらに寄せたいか、組織のフェーズをどう選びたいか。ここは面談で聞く領域ですが、文面の時点で「どちらの働き方もある」と書いておくと、幅を持った候補者から返信が来ます。
現場のエンジニア名義で送るなら運用まで決める
現場のエンジニアの名前で送ると、内容の具体性が上がります。ただし運用の負荷とセットで設計します。
シニア層は、送り手が技術を理解しているかを文面から判断します。人事の名前で送っても悪くはありませんが、技術的な話に踏み込めていないと、テンプレートとして処理されやすくなります。
現場のエンジニアの名前で送ると、この点は改善します。ただし始める前に、媒体側の条件を確認してください。媒体によって、現場のエンジニア名義でアカウントを発行できるか、発行できるID数に上限があるか、追加費用がかかるかが違います。ここを確認せずに設計すると、着手の段階で止まります。
あわせて、そのアカウントを人事が代理で操作してよいかも確認してください。1アカウント1利用者を定めている媒体では、代理の運用が規約に触れます。送信者名だけを変えられる媒体もあるので、代理が認められないならそちらへ寄せます。
あわせて、返信の通知を誰が受け取るかも決めておきます。現場が毎日確認するのは現実的でないことが多いので、人事が代理で見て共有する形にするなら、その運用まで含めて合意しておいてください。
現場の時間を使う施策なので、無制限には広げられません。支援に入ってきた現場では、次の形で運用していました。
候補者の絞り込みまでは人事が行う
現場が見るのは、最終的に送る候補者のプロフィールだけ
文面は共通の型を用意し、候補者ごとに触るのは1〜2文に絞る
送信前に、現場が自分の名前で出る文面に目を通す
触る箇所を絞るのがポイントです。1通に15分20分かける設計にすると続きません。
工数を見積もるときは、プロフィールを読む時間を入れてください。読んで接点を見つけるのに3〜5分、1文を足すのに2〜3分、最後に自分の名前で出る文面へ目を通すのに1分、というのが自分たちの現場での目安です。
週20通なら2〜3時間です。この水準で現場に交渉できるか、送る通数から先に確認してください。実際の時間は職種と媒体で変わるので、最初の20通は計測してみてください。
送信前に本人が文面へ目を通す工程を外さないでください。人事が現場名義の文面を書いて本人が見ないまま送ると、面談で話が食い違います。候補者から見れば本人が書いたものとして読んでいます。
返信が来た後の一次対応を誰が持つかも先に決めておいてください。現場の名前で送って、返信の対応が人事から来ると、候補者から見て話が繋がりません。
返信が来てからの初動を先に決めておく
初回の面談で技術的な話ができる体制を組みます。日程調整で数日空けると、そこで離脱します。
シニア層は複数社から同時に接触を受けている前提で考えたほうが実態に近いです。返信をもらってから初回面談まで1週間空くと、その間に他社が先に会っています。
現場のエンジニアの面談枠を週に何枠取るかは、スカウトを送り始める前に決めておく項目です。枠がないまま送信を増やすと、返信が来てから調整が始まり、初動が遅れます。
初回の面談では、次の3点を用意してください。
現状の技術構成と、いま抱えている課題(きれいに整理しすぎない)
このポジションで決められる範囲
入社後3ヶ月で期待すること
現状の課題を隠さないほうが結果として響きます。この層は入社後に何を任されるかを具体的に知りたいので、整った説明より、いま何が問題になっているかを聞けるほうが判断材料になります。
技術的負債やチームの課題を伝えるときは、そのまま並べると重く聞こえます。「テストが整備されていない」ではなく「テスト基盤の整備をこのポジションでリードしてほしい」と、任せたい仕事の形に言い換えると、課題を開示しつつ関心も引けます。
この層は返信が来ても、そこから承諾までの歩留まりが落ちやすい層でもあります。現職で一定の待遇と裁量を得ているので、選考が進むほど「今より良くなるか」の判断が厳しくなります。返信率だけを追っていると、本当に詰まっている場所を見誤ります。返信、面談、選考通過、承諾を分けて数えておいてください。
面談の最後に、次の選考ステップと想定の期間を伝えるところまでやってください。複数社を並行している層なので、いつまでに結論が出るかが分かると、他社の日程と並べて検討してもらえます。ここが曖昧だと、先に結論を出した会社に決まります。
面談の中身についてはエンジニア採用を任されたら|スカウト立ち上げ・運用編でも扱っています。あわせて、返信率そのものの上げ方はエンジニアのスカウト返信率を上げるための考え方にまとめました。
ハイクラス層の採用は、返信率を上げる工夫より、送れる相手を増やす設計と、返信が来てからの初動で差がつきます。母集団が小さい前提で、1通あたりの精度と、返信後の速度に資源を置くほうが結果につながります。
母集団がどれくらい出るか、どの媒体にその層がいるかは、条件をいくつか変えて見てみないと分かりません。ここを一緒に見たい場合は、30分ほどで現状の検索条件と媒体の使い方を整理します。
永井涼平
HRdev代表
レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。