最終更新: 2026年4月23日

エンジニア採用を任されたら|Step1 準備編

エンジニア採用を初めて担当する人事向けに、目標設定・現状把握・環境整備・要件定義・媒体運用の進め方を解説。具体的なアウトプットと判断基準を紹介する実践ガイド。

こんにちは、HRdevの永井です。

「来月からエンジニア採用もお願いね」。この一言で、突然エンジニア採用を担当することになった人事の方は少なくないはずです。営業職やバックオフィスの採用とは勝手が違い、技術要件の理解、スカウト文面の設計、媒体選定と、求められるスキルセットが根本的に異なります。

エンジニア採用を任されたばかりの方が「まず何をすればいいか」を全体像から把握できるよう、準備フェーズの各項目のポイントをまとめました。

エンジニア中途採用の進め方

目標設定・現状把握・環境整備・要件定義・母集団形成の順に進めます。いきなりエージェント開拓やスカウトを始めず、準備を整えることが成果を出すためには重要です。

このうち、エンジニア採用で苦労するケースが多いのは母集団形成と、その先のクロージングです。

特に母集団形成スカウトを送っても返信が来ない、エージェントから紹介がないなどの状況に直面しがちです。こうした課題は、前フェーズの準備が不十分なまま母集団形成の実行に突入してしまうことに起因するケースが大半です。

本記事は、エンジニア採用の全体像を6本立てで扱うシリーズの1本目「Step1(準備フェーズ)」です。

  • Step1(本記事/準備編): 目標設定・現状把握・環境整備・要件定義・母集団形成の入り口

  • Step2(企画編): 企画と経営報告、求人票、選考設計、面接形式、選考フィードバック、改善サイクル

  • Step3(スカウト運用編): 媒体CSとの連携、スカウトの日次運用とカジュアル面談実施率向上

  • Step4(エージェント編): エージェントとの伴走関係と情報発信

  • Step5(採用広報編): 採用広報・技術広報・リファラル基盤の中長期の地盤づくり

  • Step6(クロージング・振り返り編): 第二の関門(候補者体験)、定量・定性の振り返り、内製/外部分担の判断軸

目標設定と現状把握

最初にやるべきは、採用目標の明確化です。

各ポジション何名を、いつまでに採用するか。複数ポジションがある場合はどれから着手するか。経営層やEM(エンジニアリングマネージャー)と合意した数字と期限のある目標を設定するところからスタートします。

目標が決まったら、自社の採用体制とリソースを把握します。ここで特に重要なのが、現場のエンジニアやEMがどれくらい採用に関与できるかの制約条件を正確に把握することです。確認すべきは3点あります。

  • スカウトの要件定義や条件設定に協力してもらえるか

  • それに対応できるだけの時間的リソースがあるか

  • カジュアル面談(選考前の情報交換の場)は誰が担当するのか

例えば、EMが週1時間しか割けないのか、週5時間使えるのかで、運用体制がまったく異なるものになるためです。

環境整備

採用活動を始める前に整えるべき基盤が3つあります。

まず自社の技術スタック、開発プロセス、チーム構成が候補者から確認できる状態かどうかを確認します。

次に面接体制。技術面接の担当者は誰か、評価基準が言語化されているかを確認します。そしてデータ管理の準備として、候補者のエントリー数、選考転換率、内定承諾率、スカウトの送信数・開封率・返信率を週次で追える仕組みを整えます。

実務でよく見かけるのは、これらの基盤が整っている企業と未整備の企業で返信率に2倍以上の差がつくケースです。基盤整備を後回しにすると、スカウトを送り始めてから「なぜ返信が来ないのか」の原因切り分けが難しくなります。

要件定義

EMへのヒアリングで技術的課題まで掘り下げ、ヒアリングシート・ペルソナと対象条件・求人票の3つをアウトプットとして揃えます。要件定義の第一歩は、採用ポジションのEMやテックリード(技術面のリーダー)へのヒアリングです。

「React経験3年、TypeScript必須」のような技術スタックと経験年数だけの要件は、採用の解像度としてはかなり粗い。その技術を使って何をしてきたかが重要です。

新規プロダクトの立ち上げ(0→1)か、既存システムの改善・再設計か、それとも技術選定やアーキテクチャ設計(システム全体の構造設計)をリードする立場か。こうした具体的な経験レベルまで聞き出すことが、ヒアリングの本質です。

特に、ヒアリングで一番漏れがちなのが技術的な課題です。要件定義の精度を上げるには、次の3点を掘り下げることが欠かせません。

  • 組織がどのような課題を持っていて、そこに対してどう取り組んでほしいか

  • どのような技術的チャレンジがあるか

  • チームが直面している問題に対して、どのような動き方をしてほしいか

「うちにはこういう技術的課題があり、あなたにこう取り組んでほしい」と具体的に伝えられるスカウトは、候補者の関心を引きやすい。要件定義の精度が、そのまま母集団形成の質に表れます。

ヒアリングで使える質問例

初めてEMにヒアリングする場合、何を聞けばいいか迷うかもしれません。以下の質問を起点にすると、技術的な課題や求める人物像を引き出しやすくなります。

  • 「今のチームが向き合っている少し大きな技術的テーマは何ですか?」

  • 「このポジションの人が入社半年後に成功している状態とは、具体的にどういう状態ですか?」

  • 「直近で困っている技術的な課題は何ですか?(例: パフォーマンス、設計の複雑さ、テスト不足など)」

  • 「今回募集しているポジションにおいて譲れないのはどこで、それはなぜですか?」

  • 「チームのカルチャーとして、合わない人の特徴はありますか?」

要件定義の3つのアウトプット

ヒアリングで集めた要求を、採用マーケットの状況に合わせて要件に落とし込みます。

アウトプット

内容

ヒアリングシート

開発組織からの要求を網羅したデータを記録するシート(自分はスプレッドシートやNotionで作成することが多いです)。募集背景、業務内容、チームの現状課題、必須要件・歓迎要件・NG要件、求める人物像、年収レンジ、働き方(リモート可否、出社頻度、副業についての考え方など)を漏れなく記録します。

ペルソナと対象条件

ペルソナが「どんな人を採りたいか」なら、対象条件は「媒体上でどう検索するか」にあたります。ここで重要なのは、ヒアリングの要求をそのまま検索条件にしないこと。よくあるケースとして、検索条件の再設計だけでスカウト対象が週10件から週30件に増えた例があります。「開発リーダー」で検索しても「テックリード」「リードエンジニア」と登録している方はヒットしません。こうしたロール名の多義性を理解した上で、類似キーワードを漏れなく設計することが対象条件設計の肝です。

求人票

候補者が目にすべきドキュメントの中で最も重要なものです。特にこだわるべきは、募集背景と入社後にどんな開発に携わるかの部分です。ネガティブなことをそのまま書くのではなく、課題を正直に認めつつ、改善への取り組みや候補者に期待する役割として伝えます。たとえば「テストカバレッジが低い」ではなく「テスト基盤の整備をリードし、開発チーム全体の品質を底上げしてほしい」のように、候補者にとっての挑戦として言い換えます。

母集団形成の入り口

2〜3媒体に絞り、自社のリソースと制約条件に合わせた運用を設計します。テンプレ一斉送信ではなく、1to1のコミュニケーションが基本です。

媒体選定の考え方

エンジニア採用向けの主要媒体は、総合型(ビズリーチ、Green、Wantedly等)、エンジニア特化型(Forkwell、Findy、LAPRAS、転職ドラフト等)、SNS型(LinkedIn、YOUTRUST等)に分かれます。

すべてに手を出すのは得策ではありません。2〜3媒体に絞り、媒体の特性を理解した上で深く使い倒す方が成果につながりやすい。エンジニア採用が初めてであれば、主要なエンジニア採用特化型媒体1つ選定して始めるのが堅実です。

また、EMが採用に時間を割ける場合は、スカウト要件の精度が上がり、技術的な訴求力が高い運用ができます。特に初動は連携がしっかりできるかが重要です。EMの時間が限られる場合は、採用担当側でスカウト要件・文面・カジュアル面談の一次対応まで担う必要があるため、初期の要件定義(ヒアリング)を徹底的に行い、ズレの少ない「型」を作っておくことが重要です。

媒体選定の軸

ターゲット層との親和性、運用コスト(通数上限・料金体系・返信率の傾向)、自社の運用体制(週に何通送れるか)の3つとするのがおすすめです。母集団形成で成果を出すには、媒体選定だけでなく「量と質の両立」が求められます。

例えば、月に2〜3名が選考に進むパイプラインを維持するには、週30通程度のスカウト送信が目安です。採用ポジションによっては大きく変化しますが、考え方としては以下のファネルを参考に検討いただけたらと思います。

ステップ

数字

週30通送信

月120通

返信率8~10%前後

月9~12名程度

面談実施率85~95%

月8~11名程度

選考転換率20〜40%

月1〜4名

スカウト文面の設計

スカウト文面は、候補者一人一人のレジュメを読み込んで送る1to1のコミュニケーションが基本です。伝えるべきことは少なくとも2点あります。

1つ目は、なぜその候補者に声をかけたのか。どの経験・スキルに注目し、なぜ自社と合うと考えたかを具体的に書きます。たとえば「状態管理の設計に携わった経験」「大規模トラフィックのパフォーマンスチューニング経験」など、レジュメの具体的な記述に触れることで「ちゃんと読んでくれている」と伝わります。GitHubのコントリビューションや登壇資料、技術ブログの内容に言及するのも有効です。

2つ目は、候補者のやりたいことが自社でどう実現できるか。キャリア希望と自社のポジション・環境との接点を示します。

ゴールは「応募させる」ではなく「会話のテーブルについてもらう」ことです。この設計思想を持つだけで、スカウトの質は変わります。

自走できるかを判断するチェックリスト

以下のチェックリストで、エンジニア採用の基本的なアクションができているかを確認します。

カテゴリ

チェック項目

対応

目標設定

採用目標(人数・期限・ポジション・優先順位)が明文化されている

目標設定

EM・CTOのエンジニア採用への関与度合い(時間・範囲)を確認した

目標設定

各選考プロセスの担当者が決まっている

要件定義

エンジニアへのヒアリングを実施して、要件を把握できている

要件定義

ペルソナとスカウトターゲットの対象条件が整理できている

要件定義

求人票を作成し、エンジニアの確認を得た

媒体運用

各媒体の特性を理解し、使用する媒体を選定した

媒体運用

スカウト文面のテンプレートを作成し、1to1カスタマイズの方針を決めた

媒体運用

週次の振り返りサイクルと主要なKPIを設計した

媒体運用

各プロセスの主要なKPIが週次単位で振り返りできている

3つ以上チェックが入らないようであれば、採用体制の強化を検討するタイミングです。どの選択肢が合うかは自社のフェーズや課題によって異なりますが、以下に当てはまるケースでは外部パートナーの活用が選択肢に入ってきます。

  • エンジニア採用の経験がチーム内にない

  • 週にスカウト30通程度を安定して送れるリソースがない

  • 3ヶ月以上取り組んでいるが返信率が改善しない

  • 採用目標に対して進捗が大幅に遅れている

まとめ

ここまで、エンジニア採用を内製で進める初期フェーズの組み立て方を見てきました。

どのステップにも共通して効いてくるのは、現場を理解したうえでの初期設計です。求める技術スキル、チームの文脈、事業上のインパクト、こうした手触りを持たないまま要件定義や文面作成に進むと、最初は小さな認識のズレが、検索条件、スカウト文面、面談評価と下流のステップに進むたびに膨らんでいきます。間違った方向にスピードを出すほど、戻すためのコストは重くのしかかります。

だからこそ、初期フェーズでは立ち止まって現場と向き合う時間を惜しまないでほしいと思います。次回以降は、準備フェーズの土台の上で回していく実行フェーズ(企画・スカウト・エージェント・ブランディング)と、内定承諾までの候補者体験、振り返りの設計を扱います。

永井涼平

HRdev代表

レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。

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