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エンジニア採用を任されたら|人材紹介エージェント編・契約と運用

エージェント3タイプ(総合型/特化型/リテーナー・サーチファーム型)の全体像と、開拓・契約書チェック・立ち上げ30日・主力エージェント選定・リレーション施策・トラブル対応までを一気通貫で解説。

エンジニア採用の連載のうち、人材紹介エージェント編の「契約と運用」です。

この記事では、エージェントを3タイプに整理した全体像に始まり、開拓・契約書チェック・立ち上げ30日・主力エージェント選定・リレーション施策・トラブル対応までを一気通貫で扱います。

運用思想の前提(マインドシェアの奪い合い、両手型と片手型、主力5社の発想)については、人材紹介エージェント編・総論を先に読むことをおすすめします。

エージェントのタイプ別の全体像

エンジニア採用で関わるエージェントを「人材紹介会社」とひと括りにすると、料率帯・候補者層・契約形態の違いが見えなくなります。日本市場で見ると、通常は次の3タイプに分けて整理すると見通しが立てやすいかなと考えています。

エージェントフィーは、経験者採用の相場として、成功報酬で理論年収の30〜40%が中心です。ただしハイレイヤー採用を得意とするエージェントや、企業側からの特別な要望でフィー条件を調整する場合は、50〜100%など標準的な金額帯から乖離することもあります。タイプごとの相場感は次の表で整理しています。

タイプ

代表例

候補者層

フィー体系の中心

総合型(顕在転職層向けの大手総合型)

リクルートエージェント、doda、マイナビエージェント 等

顕在転職層中心、職種横断

成功報酬(理論年収の30〜35%)

特化型(領域・職種・レイヤー特化のエージェント)

ギークリー、レバテックキャリア、フォースタートアップス、RGF、エンワールド 等

該当領域・職種のジュニア〜ハイレイヤーまで

成功報酬(経験者採用で35〜40%が標準。ポジション・レイヤーで変動)

リテーナー・サーチファーム型(外資系ファーム/ヘッドハンティング系)

ロバート・ウォルターズ、ヘイズ、サーチファームジャパン、プロフェッショナルバンク 等

CTO・VPoE・テックリードクラス、市場に出ていない潜在層

月額+成功報酬、もしくは着手金+成功報酬。1名あたりの採用費用総額が1,000万円を超えることも珍しくない

要点を3つに圧縮すると次のあたりです。

  • 様々な職種で母集団形成を広げたい場合は、総合型を中心に置きつつ、業界特化・職種特化(特化型)を組み合わせて領域ごとの解像度を高める

  • ハイレイヤーのキーマン採用をエージェント経由で進める場合は、予算次第でリテーナー・サーチファーム型を活用する

  • リテーナー・サーチファーム型の本質は「量」ではなく「質の担保」。市場に出ていない潜在層へ専属で届きにいく投資として位置づける

採用したい候補者のレイヤーによって、組むべきエージェントは大きく変わります。

採用ターゲットのレイヤー

主力にするタイプ

補助で組み合わせる

メンバー〜ジュニア

特化型(スタートアップ特化・エンジニア特化等)

総合型(職種横断で母集団を広げる)

ミドル〜シニア

特化型

総合型(量の補完)

ハイレイヤー(CTO・VPoE・テックリード)

リテーナー・サーチファーム型+特化型(ハイレイヤーに強いエージェント)

「全タイプと契約しておく」のは現実的ではありません。自分たちが取り組む際は、主力2〜3社・補助1〜2社の合計3〜5社の運用が、定例とニュース発信で回し切れる上限ではないかと考えています。それ以上に広げるなら、専任の採用チームを組まないと関係維持の手間で破綻しやすくなる、という感触があります。

タイプ別の比較・選定で迷ったら、各社の提案書とフィー表をAIに読み込ませて「自社のフェーズ・ポジションに合うのはどれか」を一次的に整理させる使い方が便利です。提案書の文言や料率の差異は人間が読み比べると見落としが出やすいので、AIに「比較表を作って」と指示してから人間がレビューする運用にすると、選定の漏れや認識ズレが減ります。

業務委託エージェントは別レーンとして(余談)

正社員ではなく業務委託・準委任で迎え入れる場合の窓口として、フリーランスエージェント(エンジニアだとレバテックフリーランス、ギークス等)も選択肢になります。

これらは、開発リソースが不足している際の速度感を重視した採用を行う必要がある場合のブリッジや、新規事業など流動性の高いプロジェクトで活用されることが多くあります。

フィー体系は月額単価のマージン(10〜25%程度が主流、ただし副業系やビジネス系だと50%以上のケースがあります)が中心で、契約形態は業務委託・準委任となります。

本記事では正社員採用を主軸に進めるので、業務委託の文脈はこのあたりに留めます。

エージェント開拓と契約のステップ

主力にしたい3〜5社を見つけるまでのステップは、媒体選定とは違う進め方が必要です。媒体は機能比較で決められますが、エージェントは「担当者との相性」「自社理解の深さ」「推薦の質」という属人的な要素が成果を決めます。

総論で扱った「主力に絞る発想」を踏まえると、職種数や社内リソースに応じて、まずは少なくとも10社以上と契約を結ぶのを目安に、その中から主力+補助で合計3〜5社を見極めていく、という流れが現実的かなと考えています。適切な社数は会社のリソースによって変わるので、見極められる粒度で関係を組み立てていきます。

接点の作り方

新規エージェント開拓のチャネルは、大きく3つあります。

チャネル

内容

コスト

紹介経由

同業のエンジニア責任者・人事責任者からの紹介、既契約エージェントからの「他にこんなエージェントが合うかも」の繋ぎ

低(信用ベースで動く)

営業受け

エージェント側からのアウトバウンド(メール・LinkedIn・電話)の中から見極める

低(受け身で待てる)

自社からのアウトリーチ

「この領域に強い」と分かっているエージェントに自社から提案する

中(事前リサーチが必要)

営業受けの中から見極める運用が一番ボリュームを取りやすいですが、断る判断もセットで設計しないと面談だけで時間が溶けます。「初回30分のオンライン面談で見極める→継続判断」のようにライトに会う仕組みを決めておくのが効率的です。

初回ミーティングで見極めるポイント

初回ミーティング(1時間程度)で確認すべきポイントは6つあります。

観点

見るもの

エンジニア採用の経験量と技術理解

直近1年でエンジニア職を何名成立させたか、内訳(フロント・バック・SRE・データ等)。自社の技術スタックを担当者がどこまで会話できるか。経験量と技術理解は連動しているので一緒に見る

自社業界・フェーズの理解

同フェーズ(シード〜シリーズC等)の支援実績、業界(SaaS・FinTech等)の知見

社内体制

両手型か片手型か、担当者の交代頻度、社内のCA・RAの役割分担

推薦の母集団の作り方

自社登録者からの推薦か、リファラル・スカウトでスカウトを行うかなど

候補者へのフィードバック設計

不採用時の伝え方、選考フィードバックの返し方

コミュニケーションの取り方

Slack・メール・Chatwork・電話など複数チャネルの中から、状況に応じて臨機応変に切り替えられるか。連絡のリードタイム、定例の頻度

特に重要なのは経験量・自社業界の理解・コミュニケーションの取り方の3つです。前者2つは推薦の精度を、最後はリレーション維持のしやすさを直接左右します。「とりあえず候補者を投げてくる」スタンスのエージェントは、半年後に紹介が止まる確率が高いと観察しています。

契約書のフィー条件

契約書はテンプレで判子を押して終わり、にしてはいけません。半年後・1年後にトラブルになるポイントは、ほぼ契約書の文言でカバーできるところに集約されています。エージェント運用を始める前に、最低限以下の4ブロック(フィー条件/オーナーシップ・有効期間/返金期間と返金率/運用条項)を確認しておくと、後から揉める確率が大きく下がるかなと考えています。

成功報酬・着手金・リテイナーのいずれを採用するにせよ、金額そのものだけでなく「何を基準に・いつ支払うか」まで合意しておきます。

項目

確認しておくこと

成功報酬の料率

理論年収に対する%。タイプ別の相場感は冒頭の「全体像」を参照

理論年収の定義

基本給×12ヶ月+固定賞与(確定分)が一般的。ストックオプション・賞与・固定残業代を含むかどうかで20〜30%変わるため明示する

着手金

有無と金額。着手金がある場合、不成立時の返却有無(一般的には返却なし)。成功時に料率から差し引くかどうか

月額リテイナー

月額金額と契約期間(最低3ヶ月、最低6ヶ月など)。成功報酬の併用有無と料率

支払いタイミング

入社時に一括/入社時+試用期間後/入社時+3ヶ月後+1年後等の分割か

支払いサイト

入社確認後XX営業日以内、月末締め翌月末払い等の支払いタイミング

消費税

料率は税抜きか税込みか(税抜き表記が一般的)

紹介オーナーシップと有効期間

「この候補者の紹介手数料はどのエージェントに発生するか」を後から議論にしないために、契約段階で明文化します。

項目

確認しておくこと

紹介情報の有効期間

推薦から何ヶ月以内に入社確定すれば成立扱いか(一般的に6ヶ月〜1年。3ヶ月の会社もある)

重複時のルール

同一候補者が複数経路で来た場合の優先順位。一般的には先着順だが、候補者本人の意向で「指定のエージェントから進めたい」と要望をもらうケースもある

自社が既に接点を持つ候補者の扱い

スカウト送信履歴、過去応募者、エージェント推薦前から面談済みの候補者の扱い。除外リストの提出方式や対象期間を合意する

自社の従業員ネットワーク(リファラル)の扱い

エージェント経由で来た候補者がリファラル経路でも接点があった場合の判定

推薦候補者リストの管理

推薦リストの提出形式(メール/管理画面)、保管期間、推薦撤回の可否

入社辞退後の再応募

辞退候補者が後日他経路で再応募した場合の有効期間の扱い

特に重複ルールは口頭の合意で終わらせると揉めやすいです。スカウト運用編で扱った媒体横断の重複チェックリストと、エージェント側の推薦履歴を、定期的に突き合わせる運用を組んでおきます。

返金期間と返金率

採用が決まっても、入社後に短期で退職した場合の保証条項は、コストリスクの大きさに直結します。料率の数字だけで決めず、保証条項とセットで比較するのが原則です。

項目

確認しておくこと

返金対象期間

入社後何ヶ月以内の退職が返金対象か(一般的に3ヶ月〜6ヶ月。長いと1年)

返金率(段階別)

期間に応じた返金率の段階。エンジニア特化型では「1ヶ月以内50〜80%/3ヶ月以内25〜30%/6ヶ月以上は返金なし」とするケースが多い。100%返金は試用期間内(2週間〜1ヶ月以内)に限られる契約も。段階の刻み方はエージェントごとに大きく違うので参考値として捉える

自己都合 vs 会社都合

候補者の自己都合退職のみ対象か、会社都合解雇も対象か(自己都合のみが一般的)

健康・家庭事情等の不可抗力

病気・家族事情等の不可抗力での退職をどう扱うか

返金請求の期限・手続き

退職発生から何営業日以内に通知すれば対象か。請求手続きの方式

返金条件は契約書に「期間」「率」「対象事由」の3点が必ず明記されているかを確認します。

自社で整備する運用ルール(社内側で持つ規律)

契約書で合意する話とは別に、自社の社内側で運用ルールとして整備しておく項目もあります。エージェントと合意するというより、自社の採用チームが共通認識として持つ性格のものです。

項目

整備しておくこと

対象ポジションの範囲

このエージェントに依頼するポジション・しないポジションを社内で明文化

不採用フィードバックの粒度

エージェントへ返すフィードバックの粒度・タイミング・テンプレートを社内で標準化

連絡チャネルの使い分け

Slack・メール・Chatwork等のチャネルをどう使い分けるか、定例外の連絡頻度の目安

案件情報のアップデート頻度

月次定例・ニュースレター等の運用リズムを社内で固定

候補者情報の社内共有範囲

エージェント経由で受領した候補者情報をどこまで社内に共有するか

担当者交代時のオンボーディング

エージェント側担当者が交代したときに自社が再共有する情報の標準セット

契約書で合意する話と社内で整備する話を分けておくと、運用中の「これって契約上どうだっけ?」「これは社内ルールでどうだっけ?」が混ざらずに済みます。雛形契約書を使う場合でも、上記の観点で読み返してから署名するのがおすすめです。

自分たちの現場では、契約書ドラフトをAIに入力して「上記4ブロックの観点で抜けがないか」「相場と乖離していないか」を一次チェックさせる運用を入れています。AIの出力をそのまま採用するわけではなく、人間が読む前の論点出しに使う使い方ですが、雛形のまま見落としていた条項が炙り出される効果は大きいです。法務レビューと併用すると締結スピードが落ちずに済みます。

契約締結タイミングと紹介開始の合意

意外と見落とされがちなのが「いつから紹介を受け取れるか」が会社によって違う、という点です。契約書ドラフトの共有 → 法務レビュー → 修正 → 締結という流れの中で、どの時点から紹介スタートを認めるかは、自社の社内ポリシーに依存します。

自社のポリシー

動き方

法務レビュー完了で紹介スタートOK(契約書の正式締結は後追い)

立ち上げ初動を早く切れる。緊急性の高いポジションでは特に有利

締結合意(双方の押印手続き完了)以降に紹介開始

法務レビュー完了から締結までの数日〜数週間が空白期間になる。エージェント側の温度を維持する工夫が必要

締結後でないとATSアカウント発行・推薦受付ができない

法務レビュー完了から実務開始まで数週間〜1ヶ月かかるケースもある。締結を急ぐか、その期間を求人補足情報作成・初回ミーティングに充てる

スタートアップは前者寄りで「レビュー完了 → 即スタート、契約書の押印は並行」というケースが多く、上場企業や大手は「締結後でないと一切動けない」と厳格に運用するケースが多い、という傾向はあります。ただし会社の法務ポリシーや、コンプライアンス部門の方針で個別に違うので、自社のルールを契約締結プロセスに入る前に確認しておきます。

エージェント側も「いつから紹介できますか」を必ず聞いてくるので、自社のポリシーを採用責任者・法務と擦り合わせて、回答を統一しておきます。回答が窓口担当者ごとに違うと、エージェント側で混乱が起き、動き出しの初速が落ちます。

緊急性が高いポジションを抱えている場合は、契約締結プロセスの開始時点で「自社の場合、どの時点から紹介を受けられるか」をエージェントに先に伝えておくのが安全です。エージェント側も他支援先との優先度を組み立てているので、初回ミーティングで「3週間後から本格稼働」のように見通しを共有できると、温度を保ったまま立ち上げ期に入れます。

立ち上げ期の情報共有設計

契約後の立ち上げ期(最初の30日が目安)は、エージェントとの関係性を決定づける時間帯です。ここで自社情報を厚く渡せるかどうかで、3ヶ月後の紹介の質と量が大きく変わります。

総論で触れた「担当者のマインドシェアを取りに行く」ために、情報の厚みと連絡の早さで「この会社は推薦する甲斐がある」と認識してもらうのがゴールです。

エージェントに最初に共有する求人情報

エージェントが候補者に自社を説明するときの「一次情報の厚み」が、そのまま推薦の質になります。求人ポジション固有の情報と会社全体を理解するための材料の両方を、最初にまとめて渡すのが基本です。

情報

内容

渡し方

会社紹介資料

事業概要、ミッション、組織体制、沿革

採用ピッチ資料・会社紹介PDF / Notion

ブログ・テックブログ

直近の事業・技術トピックを綴った発信

主要記事5〜10本のリンク集。ポジションごとに2〜3本で整理してあるとベスト

主要なSNS

会社・代表・エンジニア責任者のX / LinkedIn等のアカウント

URL一覧

ニュース記事・プレスリリース

直近の資金調達、プロダクトリリース、メディア掲載

URLリスト

採用背景

なぜ今このポジションを採用するか、事業上のインパクト

案件説明資料・口頭説明

技術要件

技術スタック、開発プロセス、チーム構成、技術的チャレンジ

案件説明資料・現場エンジニア同席ミーティング

求める人物像

必須・歓迎・NGの3層、カルチャーフィット観点

案件説明資料・ペルソナ資料

選考プロセス

選考フロー、面接官、各段階の評価観点、想定スピード

選考フロー資料

年収レンジと条件面

年収レンジ、働き方、ストックの有無、評価制度の概要

案件説明資料

直近の選考フィードバック

通過した候補者・落ちた候補者の理由(個別氏名は伏せて)

定例ミーティングで共有

入社者の紹介

直近半年で入社した人の役割・入社理由・現在の活躍

入社インタビュー記事・採用広報の発信物の共有

センシティブ情報の扱い — 「候補者に伝わっても問題ない」設計で

エージェントとのコミュニケーションで最も難しいことの一つが、センシティブな情報をどこまでどのように触れるか、です。エージェントの担当者は基本的に「候補者に伝えてOKな情報」と「内部資料として留める情報」を区別して扱ってくれますが、両手型・片手型を問わず、担当者の解釈で候補者に伝わる可能性は常にあります。後段の「不採用フィードバック」の節でも触れますが、エージェントに渡した情報は候補者に転送される前提で書くのが安全です。

具体的には、求人補足情報の一文一文を「これが候補者本人に届いても、自社のブランドが毀損しないか」という基準で言語化します。次のような書き分けが目安です。

内容

求人補足情報への書き方の方針

採用背景の社内事情

「事業のXX領域でユーザー数が3倍になり、設計が限界に達している」のように、事業ストーリーとして書く(候補者にも事業状況の説明として通用する形)

チーム構成

役職・人数・主要メンバーの役割は書く。社員の人間関係(誰と誰が合わないなど)は書かない

選考でこだわる観点

「設計判断の言語化を重視している」など、候補者にも事前共有して問題ない形で書く

採用したくない人の具体例

「副業多めで稼働が読めない方は今回難しい」のような踏み込んだ表現は使わず、「専任稼働での参画を前提としている」のような中立的な表現に置き換える

競合他社との差分

「XX社より裁量が大きい」のような他社言及は避け、自社の特徴を肯定形で記述

年収レンジの内部事情

「上限は本来750万だが、優秀なら800万まで出せる」のような内部の含みは求人補足情報に書かず、口頭で担当者に伝える

NG要件の生々しい記述

「過去にXX社出身者でトラブルがあった」のような表現は文書に残さず、口頭の補足に留める

最初から「全部候補者に見られても問題ないように書く」というように統一しておくと事故が減ります。AIでフィードバック文章作成用やチェック用のプロンプトを書いておくとスムーズに運用できるかと思います。

通過候補者の傾向は月次でまとめて共有する

選考に進んだ候補者の通過・不通過の理由は、エージェントが推薦軸を修正するための一番の素材です。企画・設計編の「選考フィードバックの設計」で扱った通り、生コメントをそのまま転送するのではなく、判定の骨子と評価できた点・印象的なエピソードを採用担当が整理してから渡します。

月次定例で「直近1ヶ月で進んだ候補者の傾向」をまとめて共有すると、CAは次月の推薦候補者の絞り込みを修正できます。「Reactの設計レビュー経験を重く見ている/プロダクト規模の経験は今回そこまで重くない」のような通過軸の整理を、毎月アップデートしていく運用です。

入社者紹介を素材化する

過去半年〜1年で入社したエンジニアの情報は、エージェントにとって「推薦時の口説き材料」になります。本人の許諾を取った上で、次の3点をまとめておくとCAが候補者に伝えやすくなります。

  • 入社時のバックグラウンド(前職、年代、技術領域)

  • なぜ自社を選んだか(候補者の意思決定軸)

  • 入社後どう活躍しているか(プロジェクト、評価、登壇等の対外発信)

社内のテックブログや採用広報記事を書いてもらえると、URLとして渡せるので情報の鮮度が保ちやすくなります。採用広報編と連動させて、入社者の活躍を発信し続ける仕組みを作っておくと、エージェントへの素材としても使い回せます。

立ち上げで目指すのは「自社をエージェントの主力企業リストの上位に置いてもらう」ことです。そのため自社の初動は非常に重要で、その後のリレーションの深さや、エージェント担当者のコミットメントに大きな影響があります。

主力エージェント選定におけるチェックポイント

10〜20社程度と契約したあと、3ヶ月〜半年で「主力にする2〜3社」を見極める運用に入ります。判定軸は、紹介数だけで決めません。紹介数が多くても推薦の質が低いエージェントより、紹介数は少なくても質高く動いてくれるエージェントを主力にしたほうが、結果的に成立率は高くなります。

3軸での判定

主力候補のエージェントは、次の3軸で見ます。

見るもの

判定基準(参考レンジ)

紹介数

直近3ヶ月の推薦人数

月3名以上が安定して出ているか

推薦の質

書類選考通過率(推薦→書類通過)

30%以上(一桁なら推薦軸が合っていない)

フィードバック品質

候補者属性の説明、選考FBへの反応

推薦理由が固有名詞・具体エピソード付きで書かれているか

3ヶ月運用してこれらの軸でスコアを出し、合計値の高い順に主力2〜3社を決めます。判定基準は自社の採用実績と照らして決めるべきもので、上記レンジはあくまで参考値です。年1〜3名採用なら月1名以上の安定紹介で主力認定する、年10名以上なら月3名がベンチマーク、というように採用規模で目線を変えるのが現実的かなと考えています。

月次の重み付けと四半期での仕分け

主力エージェントは「直近3ヶ月で3件以上の紹介実績があるか、年間推薦件数の上位2〜3社に入るエージェント」を目安にします。これに加えて、四半期ごとに次の3分類で仕分けます。

分類

定義

運用

主力(2〜5社)

紹介数・推薦の質・FB品質の3軸が一定水準以上

月次定例必須、リレーション施策フル投下、案件情報を厚く共有

準主力(3〜5社)

紹介はあるが波がある、もしくは特定ポジションだけ強い

月次ニュース配信、定例は四半期に1回

関係維持(その他)

紹介がほぼ止まっている、もしくは合わなくなった

サマリー版のニュース配信、季節挨拶程度の関係維持

主力以外を切り捨てる必要はありません。準主力や関係維持に置いておくと、特定ポジションが立ち上がったときに「このエージェントが強い領域だから声をかける」という戻し方ができます。

リレーション施策のバリエーション

「定期的な対話の場」と「能動的な情報発信」と「個別の関係構築」の3つを組み合わせるのが、リレーション維持の基本形です。

ニュースレターの配信設計

主力以外のエージェントを含めて、定期的にニュース発信を打つ運用にしておくと、関係性が薄まりにくくなります。頻度の目安は月1回程度です。フォーマットは次の構成が基本です。

ブロック

内容

文量目安

ご挨拶

担当者の近況、シーズン挨拶

100字程度

直近の組織・プロダクトアップデート

プロダクトの新機能、組織変更、資金調達等

200〜300字

入社したエンジニアの紹介

役割、入社理由、現在の取り組み(本人許諾必須)

200〜300字

募集中のポジションと優先度の変化

ポジション一覧、優先度の高いもの、新規ポジション

200〜300字

候補者に刺さるポイント

技術的挑戦、カルチャー、働き方の最新

200〜300字

最近の選考フィードバックサマリー

通過軸の傾向、よく見る評価ポイント

200字程度

関連リンク

採用ページ、テックブログ、最近の登壇資料

リンク3〜5本

配信先ごとに内容を細かく出し分けると運用負荷が膨らむので、全社共通の同じ内容を送るのを基本にして、主力エージェントにだけ個別のフォローアップ(特定ポジションの詳細、特殊条件、経営層やエンジニア責任者からのコメント等)を追加する形が現実的かなと考えています。マネジメントコストを下げるほうが、月1回の運用を継続するうえで重要です。

配信方法は、本体をNotionページやGoogleドキュメントにまとめて、更新通知をメールで送る形にしておくと、コスト低く運用できるかと思います。エージェントは複数社を担当しているので、能動的にこちらから情報を送らないと記憶から薄れていくのが普通です。

本格的に運用しているわけではないですが、ニュースレターの初稿はAIに書かせる前提で組めば、低コストで運用をスタートできるかなと思います。直近の社内Slack・GitHub Issue・プロダクト更新ログを月次で渡してドラフトを生成し、固有名詞や本人確認が必要な部分だけ手で修正する流れにしておけば、配信先が増えても月1回の運用が止まりにくくなります。

個別の関係構築(DM・ランチ・1on1)

定例とニュースレターは公式チャネルですが、個別の関係構築も並走させると効果が大きく違います。CAも人間なので、公式の定例だけで把握できる情報には限界があります。

施策

頻度

効果

DM・SlackでのライトなQ&A

随時

細かい質問・確認をリアルタイムで解決。心理的距離を縮める

ランチ・コーヒーミーティング・会食

四半期に1回程度

公式の場では出ない本音の情報交換、市場の温度感の共有

個別1on1(採用責任者やエンジニア責任者とCAの直接対話)

半年に1回程度

CAの自社理解を深める。シニアクラスの紹介につながる

ランチや1on1はエージェント側にとっても歓迎される場合が多いです。日常の雑談から「最近、競合のXX社が大量にスカウトを打っている」「この技術領域の候補者が動き始めている」といった情報が出てくることがあり、定例では拾えない情報源になります。

現場座談会(専門性の高い職種を採用する場合)

エンジニア・デザイナー・データサイエンティスト・スペシャリスト等、専門性の高い職種を採用するときは、CAが候補者に自社を説明する際の現場理解の解像度が、そのまま推薦の精度に効きます。四半期に1回ほど、自社の現場責任者・現場メンバーとCAの座談会を設定すると、CAの自社理解が一段深まります。

例えばエンジニア採用の場合は、次のような内容で組み立てます。

  • 自社の技術スタック・アーキテクチャの説明(現役エンジニアから直接)

  • 直近の技術的チャレンジ・解決した課題のエピソード

  • チームメンバーの紹介(バックグラウンド、強み)

  • 質疑応答(CAが候補者からよく聞かれる質問への回答準備)

1時間の座談会で、CAの自社理解は格段に深まります。現場側のリソース調整は必要ですが、四半期に1回の投資に見合うリターンが返ってくる施策です。

オフィスツアー

オフィスがある会社なら、エージェントを招いて1〜2時間のオフィスツアーを年1〜2回設定するのも有効です。Slackチャンネルではわからない会社の空気感、ホワイトボードに残った技術議論の痕跡、ランチタイムの会話。これらを実体験してもらうと、エージェントが候補者に説明するときの言葉に手触り感が出ます。

入社インタビューの発信

採用広報を通じて、自社にどのような方が入社し、どう活躍しているかを発信しておくと、エージェントが候補者に「この会社に入った人はこう活躍している」と語る際の参考材料になります。推薦の説得力が一段上がるポイントで、エージェント向けに別途素材を作るというより、採用広報編で出している記事をそのまま共有する形で十分です。

例えば次のような発信物が、推薦時の語り材料として機能します。

  • 入社1ヶ月インタビュー(早期の所感)

  • 入社半年のプロジェクト紹介

  • 入社1年のキャリアアップ事例(評価、ポジション変化)

  • 登壇・テックブログ・OSS活動の発信

パートナーカンファレンス・採用イベント共催

複数のエージェントを一堂に集めた「パートナーカンファレンス」を年1〜2回開催する運用も、関係深化に効きます。

  • 自社の経営層・エンジニア責任者・人事責任者からの全社方針説明

  • 直近の組織・プロダクトアップデートの一斉共有

  • エージェント間でのディスカッション(市場の動向、候補者の関心事項)

  • 個別ブースタイム(CAごとに採用責任者と個別相談)

エージェント側にとっても、他のエージェントが自社の何を見ているかを知る機会になります。「あのエージェントもこの領域に推薦軸を持っている」と知ることで、自社内での候補者選別の精度が上がります。

採用イベント(オープンオフィス、ミートアップ、勉強会等)の共催も、エージェント経由の候補者を呼び込む手段として機能します。CAが「この会社のミートアップに来てみませんか」と候補者を誘えるイベントが定期的にあると、転職検討前の段階から自社接点を作れます。

エージェント運用のよくあるトラブル

エージェント運用では、契約・推薦・選考・採用成立の各段階で発生しやすいトラブルがあります。事前に想定して、ガードを設計しておくと事故を減らせます。

候補者の重複(複数経路での接触)

A媒体でスカウトを送った候補者が、B社経由のエージェントから後日紹介される、というケースは普通に発生します。同じタイミングで転職活動をしている候補者は複数媒体・複数エージェントに登録しているケースが多いからです。

ケース

想定される問題

自社が他経路で接点を持っている候補者がエージェント経由で紹介される

エージェントとの紹介有効期間と二重支払いリスク

複数のエージェントから同一候補者が紹介される

どのエージェントへの成功報酬が発生するかで揉める

エージェント経由の候補者が自社のスカウトと並行して動いている

候補者からの不信感(情報の整理がついていない印象)

自社の運用ルールを明文化するときや、エージェントの契約を一覧で管理するときに、オーナーシップルール(誰の紹介として扱うかの優先順位、一般的には先着順)を記載しておくと事故を減らせます。

ネガティブフィードバックが候補者へ転送

採用選考プロセスにおいて、面接官は率直にフィードバックを書くことがほとんどです。そのため、そのフィードバックをエージェントにそのまま共有してしまうと、一定の確率でそのまま候補者に転送され、ネガティブな印象を与えてしまうことがあります。

ここで一番重要な前提は「エージェントに送ったフィードバックは候補者に転送される可能性がある」と思って書くことです。「明文で転送しないでほしいと書けば安全」ではありません。明文記載は事故率を下げる程度の効果しかなく、最後の防壁は表現自体の安全性に置きます。具体的な対処を次にまとめます。

  • 文面のすべての一文を「候補者本人に届いても会社ブランドが毀損しないか」という基準で言語化する

  • 人格・能力の否定を避け、「今回のポジション要件との適合度」に寄せた書き方にする

  • その上で「この内容は候補者本人には直接伝えないでほしい」と明文で記載する

  • エージェントへのフィードバック粒度・記載例をテンプレート化して、採用チーム内で標準化する

この順序で習慣化しておくと、CA側でフィードバックの扱い方を理解してもらいやすくなります。

また、健康状態・家族構成・出身地・年齢に関する記述は、エージェントへのフィードバックでも文書に残さないのが原則です。候補者本人に転送される可能性に加え、要配慮個人情報の取扱いや採用差別と読まれかねない表現リスクが入ってくるので、口頭の補足に留めるなど、採用チームの共通認識を作ることを推奨します。

エージェント側の担当者交代

CAは異動・退職で担当が変わることが普通にあります。新しいCAが付いたタイミングで紹介の質が落ちる、もしくは紹介が止まる、というのはよく見るパターンです。

対処は、CAが交代したときに「立ち上げのオンボーディングをもう一度やる」と決めておくことです。新しいCAに対して、求人補足情報・選考プロセス・直近の紹介実績・通過軸の傾向を改めて説明する時間を確保します。「前任から引き継いでいるはず」と安心していると、紹介数や質の落ち込みが発生した際のリカバリーに大きく時間が取られてしまうことがあります。

社内のCRM・議事録に過去のやり取りを残しておくと、新しいCAへの説明資料としても使えます。

ワークしていない担当者の変更を依頼する

実務でよくあるのは、料率交渉の決裂や契約解除よりも、「担当者がワークしていない」という相談です。自社理解が浅い、技術領域への解像度が足りない、コミュニケーションのテンポが噛み合わない、という相性の問題で、紹介の質が伸び悩むケースです。

エージェント運用は担当者一人一人の動きで成果が大きく変わるため、自分が見ている範囲では、相性が良い担当者がついた途端に成果が一段上がることも珍しくありません。逆に、相性が合わない担当者と続けても、関係性とコストばかりが消耗します。

担当者の変更をお願いするときに意識しているのは次のあたりです。

  • 「相性」の話として伝える(担当者個人の能力否定ではなく、自社・案件との噛み合わせの話として整理する)

  • 具体的な観察事実をベースに伝える(紹介された候補者の傾向、ヒアリングの理解度、レスポンスのリードタイム等)

  • 同じ会社の中で別担当者に変えてもらう前提で相談する(契約解除ではなく担当者変更の依頼)

  • エージェント側の上長・マネージャーに相談する経路を持っておく

エージェント側もこの種の相談には慣れていて、別担当者の提案を返してくれることが多いです。「我慢して続ける」より「早めに担当者変更を相談する」方が、双方にとってメリットが大きいと考えています。

例えば、紹介数0がNヶ月連続、返信リードタイムがN日以上、というようなケースが続く場合など、定量の閾値を定めておくと判断が容易になります。

ただし、そもそも高難易度・高競争率の職種を、マーケット標準レベルの条件で採用したい、というニーズの場合は、推薦してもらいづらい状況になっている可能性があります。なぜエントリーがないのか、という観点を持ちつつ、自社ではどういった改善ができるか、というスタンスを持って、改善をやりきった後で判断するのが望ましいと個人的には考えています。

エージェント運用のチェックリスト

最後に、エージェント運用が機能しているかを確認するチェックリストを置いておきます。3つ以上チェックが入らない場合は、運用設計の見直しが必要です。

カテゴリ

チェック項目

対応

開拓・契約

エージェントの3タイプ(総合型・特化型・リテーナー・サーチファーム型)を理解した上で契約先を選んでいる

開拓・契約

少なくとも10社以上と契約があり、かつ主力となる2〜3社が見つかっている

開拓・契約

契約書にフィーの支払条件、オーナーシップ条項、返金についてが明記されている

立ち上げ

エージェント向け求人補足情報を求人票と別建てで作成した

立ち上げ

選考プロセス・評価観点がエージェントに伝えられている

月次定例

主力エージェントとの月次定例が設定できている

月次定例

議題テンプレートに沿って事前準備(数字、選考FB、自社更新)を行っている

リレーション

定期的に採用進捗のニュースレターを配信している

リレーション

四半期に1回程度の座談会・1on1・オフィスツアーを設計している

マネジメント

紹介数・推薦の質・FB品質などの軸取りをして、エージェントとのリレーション状況が把握できている

トラブル対応

候補者重複の判定ルール、不採用FBの伝え方を社内で標準化している

おわりに

エージェント開拓・契約書チェック・主力エージェント選定・リレーション施策の組み立てを自社で回すのは骨が折れます。具体的な契約書条項のレビューや主力エージェント判定の伴走を相談したい場合は、HRdevへお声がけください。エンジニア採用の代行として、30分の壁打ちで「契約書のチェック観点」「主力エージェントの仕分け」を一緒に整理することもできます。

連載内では、エージェント運用の前提(マインドシェアの奪い合い、両手型と片手型、主力5社の発想)を人材紹介エージェント編・総論で扱っています。媒体側のチャネル設計はForkwell・Findy・Greenの選び方、外部委託の判断軸はエンジニア採用RPOを使うべきタイミングと選び方に整理しています。

永井涼平

HRdev代表

レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。

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