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HRTでチームを改善!エンジニアと採用担当がすれ違う3つの原因と打ち手

エンジニアと採用担当のすれ違いはHRT(謙虚・尊敬・信頼)の構造的欠如が原因。仕組みで解消する3つの打ち手を、支援現場の実例と有識者の知見から解説します。

こんにちは、HRdevの永井です。

エンジニアと採用担当がすれ違う構造的な原因と、それを仕組みで解消する方法を整理します。HRdevがエンジニア採用を支援する中で、このすれ違いが採用チームを機能不全に追い込むパターンを何度も見てきました。

この記事の打ち手は3つ。すれ違いを「人の問題」ではなく「構造の問題」として捉え直すこと、技術と採用の翻訳者を配置すること、共通言語を設計して自走できるチームを育てること。順に書いていきます。

エンジニアと採用担当の間で何が起きている?

「技術がわからない人に評価されたくない」と「現場が協力してくれない」。双方が抱えるこの認知のズレが、対立の起点になっています。

どちらか一方が悪いわけではありません。それぞれに合理的な不満があり、見ている景色が違うだけです。

立場よくある不満背景
エンジニア技術理解の浅いスカウトが候補者の離脱や採用ブランドの毀損につながっている技術的なニュアンスをすり合わせる場がなく、採用担当が単独で判断せざるを得ない
エンジニアレジュメの読解力不足で、高い技術力のある候補者が採用担当にスクリーニングされてしまう選考基準を一緒に設計する機会がなく、それぞれの評価軸で動いている
エンジニア「面接だけお願い」のスポット依頼で全体が見えない採用プロセスの全体像が共有されておらず、部分的な依頼にならざるを得ない
採用担当要件を聞いても「いい人が来たら考える」としか言われない要件を言語化するための対話の場が設計されていない
採用担当書類選考や面接のフィードバックが返ってこない現場も開発に追われており、フィードバックの仕組みが整っていない
採用担当技術的な判断を任せたいが「それは人事の仕事でしょ」と返される採用における役割分担が合意されておらず、互いの期待値がずれている

よくあるケースとして、面談は現場、母集団形成はHRというような分業をしていることがあります。チームとしての生産性は高まりますが、お互いの領域に適切に関与・共有する仕組みがないと、改善の打ち手が打てなくなることがあります。たとえば「エンジニアは返信率や返信の質に不満があるものの、スカウトは人事の仕事なので口出ししにくい」といった状態です。

これは双方に悪意があるわけではなく、お互いの領分に対してのリスペクトがあるがゆえに、仕組みとしての連携ができていないことに起因するものだと考えています。

すれ違いの根本原因は何か?謙虚・尊敬・信頼の3要素で読み解く

このすれ違いを診断するのに、HRTというフレームワークが役立ちます。

HRTはGoogleのエンジニアだったBrian W. FitzpatrickとBen Collins-Sussmanが著書『Team Geek』で提唱した概念で、チームで働く個人の行動原則としてHumility(謙虚)、Respect(尊敬)、Trust(信頼)の3つを挙げたものです。あらゆる対人問題はこの3つのいずれかが欠けたときに起きる、と整理しています。

エンジニアと採用担当のすれ違いも、この3要素で分解できます。

HRT要素すれ違いの現れ方
Humility(謙虚)忙しい現場では、自分の専門領域外について「わからない」と口にする余裕がなかなか持てません。エンジニアは採用プロセスの全体像を把握する機会がなく、採用担当は技術的な判断に自信を持ちにくい。「わからないから教えてほしい」の一言が出ないまま、それぞれが自分の領域だけで答えを出そうとしてしまいます。
Respect(尊敬)エンジニア側に出やすい傾向があります。採用担当が持つ専門性、つまり採用市場の理解、候補者対応のスキル、プロセス設計の知見が正当に評価されず、採用の専門性が過小評価されてしまいます。LayerXの柴山嶺氏はエンジニアから人事に転身した経験を踏まえ、「『人事』領域は広大で奥が深い。転身して初めてそれに気づいた」と語っています(YAPC::Fukuoka 2025登壇資料より)。
Trust(信頼)双方向で起きます。エンジニアは「採用担当に技術の判断を任せて大丈夫か」と不安を感じ、採用担当は「現場に候補者対応を任せて大丈夫か」と不安を感じる。結果、エンジニアはスカウトや書類選考に口を出さなくなり、採用担当は面接や要件定義に踏み込めなくなる。信頼がないから任せられず、任せないから信頼が育たない。この循環が固定化すると、先ほどの「面談は現場、母集団形成はHR」のような分断体制に行き着きます。

小さなすれ違いはなぜチームを機能不全にする?

最終的には採用チーム全体が歩みを止めてしまいます。

機能不全はある日突然起きません。段階を踏んで静かに進行していきます。

ステップ何が起きるか典型的なセリフ
1. 小さなすれ違いスカウト文面へのダメ出し、要件の曖昧な伝達「もうちょっと考えてから持ってきて」
2. 確信の固定化「やっぱりあの人たちはわかっていない」「技術がわからない人に任せられない」
3. 距離の拡大相談しなくなる、巻き込まなくなる「こっちでやるから大丈夫」
4. 成果の低下ミスマッチ採用、候補者辞退の増加「なんで採用できないんだ」
5. デモチベーション弱い立場の側から意欲を失う「もう言っても無駄だから」
6. 機能停止離職、または採用活動そのものが止まる「採用担当が辞めました」

弱い立場がどちらになるかは状況によります。採用担当が潰れるケースもあれば、エンジニアが「採用には一切関わらない」「エンジニア採用はすべてエンジニアが行う」と極端な意思決定に至ってしまうケースもあります。どちらが先に折れても、採用チームとしての機能は失われます。

技術と採用の「翻訳者」を置くとなぜうまく回る?

精神論ではなく、技術理解と採用ノウハウの両方を持つ人を構造的に配置することが鍵です。

「リスペクトを持ちましょう」は正しいけれど、現場では機能しません。EMは開発に追われ、採用担当はオペレーションに追われている。互いの専門性を理解する時間も余裕もない。だからこそ、翻訳者を「構造として」置く。

翻訳者が担う機能は3つあります。

機能内容
翻訳エンジニアが言う「Goの実務経験3年」を「静的型付け言語+分散システムの設計・運用ができるレベル」に翻訳して採用担当に伝える。逆にHRは、採用市場の現実(この条件で使用している媒体だと候補者プールは●●名程度)を伝える。これにより、開発の現場と採用の現場双方の専門的な情報が整理されて、適切な判断が可能になります。
補完採用担当に足りない技術理解を補い、エンジニアに足りない採用プロセスの視点を補う。判断に必要なコンテキストを相手に渡し、それぞれが自分の領域で質の高い判断をできる状態を作る。現場を巻き込むには、採用活動の全体像を可視化し、どの工程で現場の判断が必要かを明示することが起点になります。
改善翻訳と補完を繰り返す中で、双方の認識ギャップを少しずつ埋めていく。コードレビューが人ではなくコードを批判するためにあるように、採用プロセスの振り返りも「誰が悪かったか」ではなく「どの判断基準がずれていたか」に焦点を当てる。最初は翻訳者を介さないと会話が成立しなかったチームが、数ヶ月後には直接すり合わせできるようになる。この変化を意図的に設計するのが改善の機能になります。

では、翻訳者を誰が担うと良いでしょうか。

形態特徴こんなチームに向く導入難易度
技術職経験のある人事技術の言語と採用の言語の両方を持つエンジニア組織が大きく、社内に適任者がいる高(適任者の発見が困難)
EM(採用にコミットできる体制がある場合)技術判断の精度が最も高く、候補者への訴求力もあるEMが採用に週数時間を割ける体制がある中(本業とのバランス設計が必要)
テクニカルリクルーター技術理解を持つ採用専任のリクルーター採用専任を置ける規模で、技術的な対話が求められる中(採用と技術の両方を理解する人材の確保が必要)
エンジニア採用特化型RPO外部から技術理解と採用ノウハウを持ち込む社内にリソースもノウハウもない低(契約で即開始可。自社定着は別途設計)

翻訳者がいると、EMは「判断が必要な工程」だけに集中できます。要件定義のヒアリング、技術面接、クロージング。それ以外は翻訳者と採用担当が回す。結果として、EMが採用に使う時間を週数時間に抑えながら、採用の質は維持できます。

社内に翻訳者がいない場合、外部の業務委託・副業・RPOを活用する選択肢もあります。

まずは間に立つ「翻訳者」を立て、回るようになったら次のステップは自律的に機能するチームへ進化することです。

翻訳者がいなくても回るチームはどう作る?

共通言語と判断基準の型をチーム全員が持てば、翻訳者なしでも採用チームは回るようになります。

翻訳者の最終的な役割は、自分がいなくても回る状態を作ること。翻訳と補完を繰り返す中で、エンジニアには採用プロセスの視点が、採用担当には技術判断の土地勘が蓄積されていく。このプロセスは放っておいても起きません。意図的に設計する必要があります。

『Team Geek』にはHRTを仕組みに落とすための具体的なプラクティスが書かれています。コードレビューでは「人ではなくコードを批判する」、障害対応では個人を責めないポストモーテムで振り返る、完成前にドラフトを共有して早期にフィードバックを得る。いずれも「心がけ」ではなく「プロセスの設計」でHRTを担保する考え方です。これを採用チームに転用したのが、以下の3つの打ち手になります。

打ち手1: 週1回15分の「要件すり合わせ定例」を置く

議題は「直近の候補者で迷ったケース」1件だけで十分です。書類選考で判断が割れた候補者を1名ピックアップし、EMと採用担当が「なぜ通すのか/見送るのか」を言語化する。これを4〜5回繰り返すと、暗黙の判断基準が共有され、採用担当の選考精度が上がっていきます。ポイントは結論の一致ではなく、判断の根拠を言葉にすること。『Team Geek』が「早期共有」を推奨するのと同じで、完璧な要件を作ってから共有するのではなく、ドラフト段階で認識を合わせるほうがすれ違いは起きにくい。

打ち手2: 採用プロセスの振り返りを「ポストモーテム型」で仕組み化する

『Team Geek』のポストモーテムと同じで、人ではなくプロセスの精度にフォーカスする。「誰が悪かったか」ではなく「どの工程の判断基準がずれていたか」を議題にする。「この表現だと候補者に伝わらない」は改善提案であり、「なんでこんな判断をしたのか」は人格攻撃です。この区別を仕組みとして守るだけで、振り返りの心理的安全性はまったく変わります。

たとえばスカウト文面であれば、月1回EMが3通だけサンプルレビューし、技術的な表現のズレを指摘する。採用担当はその指摘をテンプレートに反映する。毎回全通チェックする必要はなく、サンプルで型を揃えていくイメージです。採用担当とEMの振り返りサイクルの支援は適切に実施できれば、経験の浅い採用担当でも早ければポジションあたり1ヶ月程度で7〜8割の精度でのキャッチアップが可能です。

打ち手3: 選考基準を「共通言語」として文書化する

「コミュニケーション能力が高い」「技術力がある」のような抽象的な基準ではなく、「設計レビューで代替案を2つ以上提示できる」「未経験の技術スタックでも1ヶ月でキャッチアップした実績がある」のように、行動レベルで定義する。この文書をエンジニアと採用担当が一緒に作ること自体が、互いの判断基準を理解するプロセスになります。共通言語ができると、選考の振り返りも「なんとなく合わなかった」ではなく「この基準を満たしていたか/いなかったか」で会話できるようになる。

3つの打ち手に共通しているのは、対話の回路を構造として作ること。すれ違いの原因が構造にあるなら、解消する手段も構造で設計する。属人的な頑張りや相性に頼らず、仕組みとして回る状態を目指す。

自分たちのチームが今どのステップにいるのかを確認するための問いも置いておきます。

#チェック項目状態の目安
1エンジニアと採用担当が直近1ヶ月で要件について直接会話した回数は?ゼロなら、距離が広がっている
2採用担当はエンジニアの技術的な判断をどこまで信頼しているか?逆は?信頼の非対称性を可視化する
3要件定義や選考基準について「共通言語」はあるか?なければ、すれ違いは構造的に必然

すれ違いは構造の問題だからこそ、構造で直せます。小さな仕組みを1つ入れるだけで、エンジニアと採用担当の関係は変わり始めます。


永井涼平

HRdev代表

レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。

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