AI時代のものづくりの新職種「AI Builder」とは
西海岸と国内で広がる新職種「AI Builder」。LayerX・マネーフォワード・PLAINERの求人票分析、関連職種(AIエンジニア・FDE等)との棲み分け、自社採用への取り込み方を解説します。
こんにちは、HRdevの永井です。
エンジニア採用の現場で「AI Builder」という新たな職種を目にする機会が少しずつ増えています。
西海岸では2026年初頭から、国内では2026年4月後半にLayerX・マネーフォワード・PLAINERが相次いで職種を公式表記で切り出しはじめました。「ソフトウェアエンジニア」でも「AIエンジニア」でも「PdM」でもない、新しい採用職種として広がり始めています。
「AI Builder」とは何を指す職種なのか
AI Builderは、新しい技術領域を担う特定のエンジニア種別ではなく、AIによって複数工程の境界が消えた結果、生まれた新しい職種です。エンジニアでもPdMでもデザイナーでもなく、その全部を1人で巻き取れるそのスコープを表す名前として、「Builder」とされています。
「AI Builder」という呼称は2026年に入って西海岸で急速に広がりました。San Francisco Standardが2026年3月にこのトレンドをシリコンバレー全体の現象として報じて以降、Decagonの「Agent Builder」、SoFiの「Product Builder」、Walmartの「Dedicated Agent Builder」など、肩書として採用する企業が連鎖的に増えました。
海外では公式の肩書はPMやエンジニアのままでも、自分のLinkedInプロフィールに「AI Builder」と記載するケースが目立つようになっています。LinkedInは社内で「Full Stack Builder」プログラムも立ち上げました。
Anthropicのエンジニア、Boris Cherny氏が「ソフトウェアエンジニアという肩書はなくなる。これからはBuilderかProduct Managerだ」と語ったとされるコメントもよく引用されます。
国内における「AI Builder」募集の今
2026年5月12日時点で公開求人を確認した範囲では、「AI Builder」「AI Product Builder」と職種名そのものを切り出している国内企業は、LayerX(バクラク事業)・マネーフォワード(HRプロダクト開発本部)・PLAINERの3社でした。
いずれも2026年4月以降の募集で、スコープも年収帯も別物ですが、共通して「LLM/生成AIネイティブのプロダクト企画→プロト→本番投入までを1人で巻き取る」設計になっています。今回はこのカテゴリを公開求人ベースで一段掘り下げます。
企業 | 正式職種名 | 年収レンジ | 募集開始 | 業務スコープ |
|---|---|---|---|---|
LayerX | 非公開 | 2026年4月20日 | 顧客課題の特定→プロト→Agentic Nervous System構築→エージェントハーネス設計 | |
マネーフォワード | 690万〜1,100万円 | 2026年4月30日 | LLM活用の新規プロダクト企画・設計・実装、プロトから本番運用までフルサイクル開発 | |
PLAINER | 900万〜1,800万円 | 2026-04-28 | ①顧客企業の業務プロセスAI化支援 ②自社開発プロセスのAI化推進 |
LayerX バクラクのAI Builder
LayerX「AI Builder」のミッションは「AIを使い倒して顧客と組織の課題を解消し、新しい価値を届ける」と採用ページで明示されています。
業務は3つの柱で構成されています。第1に、Claude Code・Dify・Cursor等を駆使した事業機会の探究とプロトタイピング。第2に、営業・採用・経理を含む全領域でのAIエージェント化推進。第3に、タスクの品質劣化を防ぐエージェントハーネスの設計です。
背景には「Bet AI」戦略があります。LayerXは2025年4月に行動指針を「Bet Technology」から「Bet AI」へ更新し、全社員がAIを自分ごととして使い倒す組織を目指されています。
なお、LayerX社内には【バクラク】AI・LLMエンジニア、【バクラク】エンタープライズAI BPR、【AgenticSec】シニアSWE、Ai Workforce事業部のForward Deployed Engineerなど別カテゴリのAI関連職種も並走していますが、「AI Builder」と表記されているのはバクラク事業の1職種のみです。
マネーフォワードのAI Product Builder
マネーフォワードは2026年4月、HRプロダクト開発本部で「【AI Product Builder】」を公式表記の職種として募集開始しました。
業務はLLMを活用した新規プロダクト・機能の企画から実装、プロトタイプ作成から本番環境運用までのフルサイクル開発をリードする「開発主導ポジション」です。同社が「AI-SDLC(AI駆動開発)」と呼ぶ開発スタイルが背景にあります。
必須スキルは3年以上のWebアプリ開発経験、プロダクト企画からリリースまでの推進経験、生成AIを活用したプロトタイプ実装・検証経験。
PLAINERのAI Builder
PLAINER(20名規模のSeries A、SaaSデモプラットフォーム提供)は2026年4月28日、【Dev】AI Builderを新設ポジションとして公開しました。求人本文では「『AIを使って何かを作れる人』ではなく、『AIを使って顧客と自分たちの仕事の仕方を根本から変えられる人』を求めています」と明示しています。
業務は2軸構成です。第1に、顧客企業の業務プロセスAI化支援。プロダクトを軸に、顧客企業の営業・CS・マーケティングなどの業務プロセスにAIを組み込む設計・実装支援を行います。第2に、開発プロセスのAI化。Claude Code・Cursor・GitHub Copilotなどのツールを活用し、コード生成・レビュー補助・テスト自動化・ドキュメント生成まで含む「AIネイティブな開発チーム」を実現します。AI-DLCという開発スタイルを一部採用しています。
なお、PLAINERは「Applied AI Engineer」「Product Focused Engineer」など別のエンジニア職種も並走で公開しており、職種名で役割を厳密に分けている運用が見て取れます。
AI Builderは他のエンジニア職と何が違うのか
LayerX社において同じ事業部の中で、AI Builderはフルスタックエンジニア・機械学習エンジニアとは別物として明確に切り分けられています。
LayerXバクラク事業部は、AI Builderを2026年4月20日に新設しましたが、同事業部にはそれ以前から「シニアプロダクトエンジニア_フルスタック」(2021年12月公開)、「機械学習エンジニア」(2022年4月公開)が並走しています。3職種の求人本文を一次ソースから比較すると、次のような差分が見えてきます。
軸 | |||
|---|---|---|---|
募集開始時期 | 2026-04-20(新設) | 2021-12-04(長期募集) | 2022-04-14(長期募集) |
主要業務 | AIで事業機会を発見→プロト構築 、Agentic Nervous Systemの実装 | 既存プロダクトと基盤の開発・運用、新規プロダクトの立ち上げ、開発チームのリード | AIプロダクト・機能の立案、LLM/VLM/エージェント技術によるモデリング、AI性能モニタリング、AI/ML基盤の設計 |
必須要件(技術側) | AIエージェント(Claude Code・Cursor・Devin等)を日常的に活用し、自身の業務の大部分をAIに置き換えた経験。ソフトウェア開発の基礎理解(言語不問) | Webアプリ/モバイルをフルスタックに開発した経験4年以上 | タスク定義から実装・検証までを自ら行い、技術で事業課題を解決した経験。AI/ML製品の効果検証・性能改善経験 |
必須要件(姿勢) | High Agency(高い主体性)、即行動、アウトカムへの執着、リソースフルネス | プロダクトにおける課題を主体的に発見し周囲を巻き込んで解決した経験 | チームでの推進力、学習意欲、顧客フィードバックへの真摯さ |
望ましい経験 | LLMアプリ開発(プロンプト・RAG・エージェント設計・ハーネス設計)、長時間Agentタスクの設計、事業+エンジニアリングの越境キャリア | Go/TypeScript+AWS、テックリード経験、AIをプロダクトに組み込んだ経験、AIを開発プロセスに組み込んだ経験 | LLM/VLM、画像認識、自然言語処理、データ基盤、修士/博士、国際会議論文採録、OSS貢献 |
求める専門性 | 専門特化を求めない(むしろ「専門知識に基づく役割で活躍したい方には合わない」と明記) | フルスタック開発スキル | 機械学習・生成AIの専門技術 |
役割境界 | 「『エンジニア』『PdM』『ビジネス』の境界を越え、課題発見→AI実装→現場実装まで一気通貫」 | プロダクトマネージャーや営業と密に連携、技術観点で価値最大化 | PdM・デザイナー・QA・EM・テックリードと共にスクラム |
「合わない人」明記 | 専門職特化志望/企画ディレクション主/整った環境を好む方 | 明示なし | 明示なし |
求人本文の重心 | 「AIで事業を前に進める側で働けること」「役割の境界を越えて事業インパクトに向き合う」 | 「使われないものを作らない」「顧客課題を深く理解した仕様落とし込み」 | 「AIに何をやらせるべきか」「プロダクトの本質に踏み込む」「数多くのユーザーの業務体験を変革」 |
給与 | 当社規定による(公開なし) | 当社規定による(公開なし) | 当社規定による(公開なし) |
3職種を読み比べてわかるのは、AI Builderが「AIエンジニア・機械学習エンジニアの上位互換」ではなく、明確に異なる職種ということです。
フルスタックエンジニアは「SaaS的なエンジニアリング」を軸に、AI Codingを取り入れながら既存プロダクトの体験を磨く役割です。機械学習エンジニアは「LLM/VLM/エージェントの専門技術でAI機能を実装する」モデリング寄りの専門職です。これに対しAI Builderは「役割の境界を越えて、自分の業務をAIに置き換えた経験を持ち、課題発見→プロト→組織実装まで一気通貫で担う」役割として明確に切り分けられています。
特に決定的なのは「合わない人」の明示です。AI Builderの求人本文には「専門知識に基づく役割や職種の中でご活躍を考えている方」「自分で手を動かしプロトタイプを作るよりも、企画やディレクションを主にしたい方」は合わない、と書かれています。専門技術職とも、PM・ディレクター職とも、明確に別物だという宣言です。
マネーフォワード「AI Product Builder」・PLAINER「AI Builder」の求人本文を読んでも、同じ構造が見て取れます。LLM/生成AIネイティブを前提に、企画から実装までフルサイクルで担い、組織や開発プロセスのAI化までスコープに含む。これが「AI Builder」表記カテゴリの共通項です。
なぜ「エンジニア」ではなく「Builder」を採用するのか
AI開発ツールの普及により設計・開発・運用の工程分業が崩れ、職種境界そのものが変化しているからだと考えています。
従来は、PdMが仕様を作り、デザイナーがUIを設計し、エンジニアが実装し、QAがテストし、SREが運用するという流れがあり、それぞれの役割が分業されていました。
しかし、AI開発ツール(Claude Code、Codex、Devin等)の進化により、この分業の前提が崩れています。仕様の構造化、UIの叩き、コード生成、テストコードの自動生成、デプロイの自動化までを、1人の人間がAIに指示を出しながら30分〜数時間で回せる場面が増えてきました。自分たちもHRdevの社内ブログ運用で同じ構造を体験していて、ライターとエンジニアとデザイナーとSREが分かれていた工程を、Claude Codeをハーネスに使うことで実質1人で回しています。
LinkedInのAneesh Raman氏のコメントは、この変化を簡潔に表しています。「Full Stack Builderは、これまで設計→製品→エンジニアリングの間を数日〜数週間かけて流れていた作業を、1人で巻き取れる」。「自分は実装だけ」「自分は要件定義だけ」という働き方そのものが、AI時代には非効率になります。
自社の採用戦略にこのトレンドをどう取り込めばよいか
肩書を真似るのではなく、職種境界が溶けた前提で要件と評価基準を再設計するのが良いかと考えています。
「AI Builder」という名前を求人票に載せるかどうかは、本質的な論点ではありません。重要なのは、AIツールが工程の境界を溶かしている現実を、自社の採用要件と評価基準に反映できているかどうかが重要です。
参考のために、判断するための4つの問いを立ててみました。これらに回答ができそうであれば、役割としてAI Builderを募集するのも良いかもしれません。
職種の要件定義の問い
AIでどのようなインパクトを出したいか言語化できているでしょうか。
LayerXはAI Builderに「組織のAIエージェント化推進」まで責任範囲に含めることで、職種の境界線を明確にしています。プロトタイピングまでなのか、本番投入まで持っていくのか、組織の業務再設計まで踏み込むのか、ここで決めると求人と候補者の期待がズレにくくなります。
評価軸の問い
「コードが書ける」「PMができる」など単体の職能だけで評価しようとしていないでしょうか。
AIによる工程統合を前提にするなら、単体の課題発見能力、AIツールのオーケストレーション能力、複数工程を1人で回す幅広い知見をもとめるポジションならではの評価軸に設計していることが望ましいかと思います。
待遇の問い
AIネイティブ人材に対して、AI予算を含めた環境投資をする覚悟があるでしょうか。
LayerX社では月10万円のAI利用費を保証しています。これは、AIネイティブな人材は環境制約が低いほどアウトカムが伸びる、という理解の表れだと思います。
年収レンジだけ揃えても、AIツール予算が出ない=AI活用への積極性が読み取りづらい会社は選ばれにくくなる可能性があります。まずは入社後の利用ルール設計や上限設定から始めるのが現実的です。
組織設計の問い
部門横断の意思決定を、その人が現場で回せる組織になっているでしょうか。
AI Builderが工程を統合するには、設計・開発・運用・営業の境界を越えた裁量が必要です。組織の縦割りが強いと(「肩書だけ作って運用が回っていない」状態に陥る恐れがある)、パフォーマンスが発揮できません。
おわりに|職種の変化は、採用基準の変化のシグナル
「AI Builder」という呼称が広がっているのは、単なる流行ではなく、実態に合わせた新しい職種定義が必要になった結果だと思っています。
採用責任者として今整理する価値があるのは、肩書で流行に追従することではなく、自社の事業構造と業務プロセスのなかで境界がどのように変化しているかを見極め、それに合わせて要件と評価軸を更新することだと思います。AI Builderという新たな職種の在り方を通して、参考にしていただけたら嬉しいです。
AI時代の採用要件や評価軸の設計について、自社の場合はどう整理すべきか壁打ちしたい方は、お気軽にご連絡ください。
永井涼平
HRdev代表
レバレジーズ、クラウドワークス等を経て2021年にHRdev創業。18年以上エンジニア採用の最前線に立ち、ログラス・MFS・SALESCORE等の支援実績を持つ。
